扉をたたく人

2010年5月15日 映画
主人公のウォルターは妻に先立たれ無気力な生活を送る大学教授。
ふとしたことからシリア系の青年タレクと出会い、
ジャンペというアフリカン・ドラムの演奏を教わる。
テクニックは必要ない、感じたままに叩けという
タレクの言葉に導かれるまま、
ウォルターはジャンペを演奏することで
感覚を開放する気持ちよさに目覚め、
生きることの張り合いを取り戻す。
しかしタレクは実は不法滞在者で
ある日運悪く当局に拘束されてしまう。
彼を解放するためウォルターは手を尽くすのだが・・・。

もうずいぶん前だが観光旅行でNYへ行ったことがある。
『人種のるつぼ』といわれるとおり、街には様々な肌の色の人があふれていた。
ハレム・ツアーでゴスペルを聞いた。
夜ライブを見に行ったクラブはイタリア人街のすぐそばにあった。
デリで買ったチャイニーズ・フードを食べ、
朝食にサンドイッチを買った店はエジプト人が経営していた。
しかし通りすがりの観光客と実際にその街に住んで見えてくるものは全く違うだろう。

この作品はNYのある側面・・・不法滞在者の日常とその運命を描いている。
主人公のウォルターとタレクは同じ国の同じ街に住み、ジャンペのリズムを通じて
人間として同じ興奮と感動をシェアし、友情が生まれる。
しかしアメリカ国籍のないタレクには、市民としての人権は無い。
「何も悪いことはしていないのに!なぜ解放されないんだ?」
「不法滞在は犯罪行為です。」
個々の人としての繋がりは、不法滞在という事実の下では何の役にも立たない。
大恋愛も派手なアクションもオシャレなブティックも一切無関係なNYの、
普通の人々を淡々と描きながら、アメリカという国が抱えたある種の苦悩が、
くっきりと浮かび上がってくる。
「入国管理局の仕事はいい加減だったよ。9.11の前までは、ね。」
何度か出てくる<世界貿易センターのないNYを海から眺めたアングル>の映像。

見終わったあと、さりげなくちりばめられたメッセージで胸と頭がいっぱいになる。

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