ブエノスアイレス (Happy Together) 編集しました。
2010年10月9日 映画
原題は「春光乍洩」、英題は「Happy Together」。
「ブエノスアイレス」よりもこちらのタイトルのほうが心にしっくりきます。
本当に・・・愛しい作品です。
どれくらい愛しいかというと、もう3回見たのに感想が書けずに
悶々としてしまう位。
(感想を書く必要もないのですが、書くことによって消化されるのです)
いきなり男性二人のリアルなベッドシーンから始まるのでびっくりします。
一人の恋人を深く心穏やかに愛し続けたい男、ウィン。
そんな彼に甘えながら、いろんな男の肉体を求めてしまう男、ファイ。
関係を修復すべく香港から地球の裏側(=ブエノスアイレス)にやってきたゲイのカップル。
始めは上手く行くように思われた二人だったが、
結局ファイは気ままな野良猫のようにウィンの元を去ってしまう。
・・・恋人を失ったウィンの喪失感とともに、映像はたちまち色彩を失い
陰鬱なモノクロに変化する。
昼と夜の区別もなく、だらだらと続く時間を半ばヤケクソにやり過ごす日々。
このあたりの、感情と映像が完全にシンクロした表現が実に見事。
ウィンは口数が少なくあまり感情を表にださない感じの男なのですが、この色彩と音楽と、
少し不安定な感じのアングルがウィンのやりきれない孤独感をひしひしと伝えます。
ところがある日、両手に酷い怪我を負ったファイがアパートに転がり込んでくる。
自分勝手な恋人に複雑な思いを抱きながら、「やり直そう。」という殺し文句にほだされて
子供のように甘えるファイに口先では文句を言いながら
幸せな気分を隠しきれないウィン。
蜜月の気配とともに画面に色彩が鮮やかに蘇ります。
木の床、モダンな壁紙、赤と黒の縞模様のブランケット。
白地に赤いプリントのテーブルクロス、くるくる回るイグアスの滝の絵のついた水色のランプ。
ファイはウィンにタンゴを教え、二人はキッチンでタンゴを踊る。
腰を押し付けあい、相手のお尻をグッと掴んで、最後には熱烈にキスを交わしながら。
お世辞にも清潔とは言えない共同キッチンが、その瞬間だけ至福のダンスホールに変わる。
二人の心と身体がぴったりと寄り添う。二人の体温、息遣いが濃密な官能の気配となって
画面から立ち昇る。
目に見え、肌で感じられる愛の存在。
しかし同時にタンゴの哀愁漂うメロディはほの暗い予感をも抱かせる。
両手の怪我が治らない限りファイは自分なしには生きていけない。
ウィンは怪我が直らないことを願い、ファイのパスポートを隠してしまう。
ベッドで眠る不実な恋人の目蓋にそっと触れる男の指先。
いつまでも自分の元に留まるはずもない恋人と知りながら、今この瞬間は自分のものだと
繊細な指の動きから胸が苦しくなるような愛しさが伝わってきます。
しかしその思いも虚しく、ファイはまた別の男の肉体を求めて彼の元を去る。
抱き合った至福の瞬間はただの思い違い、あるいは幻影にすぎないのか?
会いたいとき・愛し合いたいときに彼はいない。
どんなに深く愛しても、その肉体をひとつ処に繋ぎとめることはできない。
再びモノクロの世界に沈みそうなウィンは台北からやってきた青年チャンに出会う。
若い男の子特有の大胆さと不思議な鋭い聴覚を持った彼にウィンの胸は高鳴る。
チャンもまたウィンの声に惹かれながら、二人の関係は友情を越えることはない。
世界の果てを目指して旅立つチャンは、心の悲しみを吹き込んでと
ウィンにカセットレコーダーを渡す。
「世界の果てにある灯台にあなたの悲しみを捨ててくるから。」
彼はカセットレコーダーを握り締めて、声を殺して涙を流す。
町外れのバーの薄暗い片隅で。
不実な恋人に何度裏切られても許し、受け入れ、癒して、今度こそは上手く行くと
半ば諦めながらも際限なく恋人を受け入れてきた彼の、深すぎて言葉にできない想い。
声もなく泣き崩れるウィンの悲痛な表情が脳裏から離れない。
別れの挨拶に二人は固く抱き合う。
チャンはウィンの想いに気付いていたのだろうか?
チャンの目は溢れそうな感情を心にひっそりと閉じ込めているように見えた。
世界の果てに辿りついたチャンが音を再生してみると
そこには「奇妙な音が少しだけ入っていた。彼の泣き声かもしれない。」
時が止まったようなブエノスアイレスの地で少しの間だけ交差した3人の時間が、
それぞれの居るべき場所でバラバラに流れはじめる。
世界の果てから更にその先を目指そうとするチャン。
ブエノスアイレスを去り、台北から故郷の香港へ戻ろうとするウィン。
そして一人、ファイだけが時間の止まったブエノスアイレスのアパートに取り残される。
「いつでも どこにいても 会いたいと思えば会える」
台北の街を流れるように走り抜けるトラムの中で呟くウィンの言葉。
長い悪夢から覚めたように、その表情は未来を見つめているように見えた。
「花様年華」や「2046」でも感じたのですが、全体に満ちている<気配>に
魅了されました。
出会いの気配、欲望の気配、恋の気配、別れの気配。
何か劇的な事件が起きるでもなく、決定的なセリフがあるわけでもない。
ウィンとファイ、ウィンとチャンの、近づいたり離れたり、常に揺れ動く想いは
『この瞬間、彼は恋に落ちた』又は『そして永遠に彼の元を去った』というような
分り易い形で描かれることがない。
見る側は俳優たちの目線・仕草・声の調子、そして映像の色彩、音楽、アングル、
が描きだす気配から想像するしかない。
常に感じること・想像することを要求される・・・常に緊張感を孕んだ空気によって、
返って目に映っているもの以上のメッセージを受取ることができた気がします。
会いたい時・愛し合いたいときに彼に会いたければただ、心の中を覗いてみればいい。
タイトルバックとともに流れるHappy Together。
答えのでることなんて何一つなくても、生きていける。
見終わったあと小さなろうそくの火が灯ったような気持ちになる作品です。
そして当然のことながら(笑)、映像と音楽の融合は素晴しい!!の一言。
トレイラー
↓
http://www.imdb.com/video/screenplay/vi3332768025/
「ブエノスアイレス」よりもこちらのタイトルのほうが心にしっくりきます。
本当に・・・愛しい作品です。
どれくらい愛しいかというと、もう3回見たのに感想が書けずに
悶々としてしまう位。
(感想を書く必要もないのですが、書くことによって消化されるのです)
いきなり男性二人のリアルなベッドシーンから始まるのでびっくりします。
一人の恋人を深く心穏やかに愛し続けたい男、ウィン。
そんな彼に甘えながら、いろんな男の肉体を求めてしまう男、ファイ。
関係を修復すべく香港から地球の裏側(=ブエノスアイレス)にやってきたゲイのカップル。
始めは上手く行くように思われた二人だったが、
結局ファイは気ままな野良猫のようにウィンの元を去ってしまう。
・・・恋人を失ったウィンの喪失感とともに、映像はたちまち色彩を失い
陰鬱なモノクロに変化する。
昼と夜の区別もなく、だらだらと続く時間を半ばヤケクソにやり過ごす日々。
このあたりの、感情と映像が完全にシンクロした表現が実に見事。
ウィンは口数が少なくあまり感情を表にださない感じの男なのですが、この色彩と音楽と、
少し不安定な感じのアングルがウィンのやりきれない孤独感をひしひしと伝えます。
ところがある日、両手に酷い怪我を負ったファイがアパートに転がり込んでくる。
自分勝手な恋人に複雑な思いを抱きながら、「やり直そう。」という殺し文句にほだされて
子供のように甘えるファイに口先では文句を言いながら
幸せな気分を隠しきれないウィン。
蜜月の気配とともに画面に色彩が鮮やかに蘇ります。
木の床、モダンな壁紙、赤と黒の縞模様のブランケット。
白地に赤いプリントのテーブルクロス、くるくる回るイグアスの滝の絵のついた水色のランプ。
ファイはウィンにタンゴを教え、二人はキッチンでタンゴを踊る。
腰を押し付けあい、相手のお尻をグッと掴んで、最後には熱烈にキスを交わしながら。
お世辞にも清潔とは言えない共同キッチンが、その瞬間だけ至福のダンスホールに変わる。
二人の心と身体がぴったりと寄り添う。二人の体温、息遣いが濃密な官能の気配となって
画面から立ち昇る。
目に見え、肌で感じられる愛の存在。
しかし同時にタンゴの哀愁漂うメロディはほの暗い予感をも抱かせる。
両手の怪我が治らない限りファイは自分なしには生きていけない。
ウィンは怪我が直らないことを願い、ファイのパスポートを隠してしまう。
ベッドで眠る不実な恋人の目蓋にそっと触れる男の指先。
いつまでも自分の元に留まるはずもない恋人と知りながら、今この瞬間は自分のものだと
繊細な指の動きから胸が苦しくなるような愛しさが伝わってきます。
しかしその思いも虚しく、ファイはまた別の男の肉体を求めて彼の元を去る。
抱き合った至福の瞬間はただの思い違い、あるいは幻影にすぎないのか?
会いたいとき・愛し合いたいときに彼はいない。
どんなに深く愛しても、その肉体をひとつ処に繋ぎとめることはできない。
再びモノクロの世界に沈みそうなウィンは台北からやってきた青年チャンに出会う。
若い男の子特有の大胆さと不思議な鋭い聴覚を持った彼にウィンの胸は高鳴る。
チャンもまたウィンの声に惹かれながら、二人の関係は友情を越えることはない。
世界の果てを目指して旅立つチャンは、心の悲しみを吹き込んでと
ウィンにカセットレコーダーを渡す。
「世界の果てにある灯台にあなたの悲しみを捨ててくるから。」
彼はカセットレコーダーを握り締めて、声を殺して涙を流す。
町外れのバーの薄暗い片隅で。
不実な恋人に何度裏切られても許し、受け入れ、癒して、今度こそは上手く行くと
半ば諦めながらも際限なく恋人を受け入れてきた彼の、深すぎて言葉にできない想い。
声もなく泣き崩れるウィンの悲痛な表情が脳裏から離れない。
別れの挨拶に二人は固く抱き合う。
チャンはウィンの想いに気付いていたのだろうか?
チャンの目は溢れそうな感情を心にひっそりと閉じ込めているように見えた。
世界の果てに辿りついたチャンが音を再生してみると
そこには「奇妙な音が少しだけ入っていた。彼の泣き声かもしれない。」
時が止まったようなブエノスアイレスの地で少しの間だけ交差した3人の時間が、
それぞれの居るべき場所でバラバラに流れはじめる。
世界の果てから更にその先を目指そうとするチャン。
ブエノスアイレスを去り、台北から故郷の香港へ戻ろうとするウィン。
そして一人、ファイだけが時間の止まったブエノスアイレスのアパートに取り残される。
「いつでも どこにいても 会いたいと思えば会える」
台北の街を流れるように走り抜けるトラムの中で呟くウィンの言葉。
長い悪夢から覚めたように、その表情は未来を見つめているように見えた。
「花様年華」や「2046」でも感じたのですが、全体に満ちている<気配>に
魅了されました。
出会いの気配、欲望の気配、恋の気配、別れの気配。
何か劇的な事件が起きるでもなく、決定的なセリフがあるわけでもない。
ウィンとファイ、ウィンとチャンの、近づいたり離れたり、常に揺れ動く想いは
『この瞬間、彼は恋に落ちた』又は『そして永遠に彼の元を去った』というような
分り易い形で描かれることがない。
見る側は俳優たちの目線・仕草・声の調子、そして映像の色彩、音楽、アングル、
が描きだす気配から想像するしかない。
常に感じること・想像することを要求される・・・常に緊張感を孕んだ空気によって、
返って目に映っているもの以上のメッセージを受取ることができた気がします。
会いたい時・愛し合いたいときに彼に会いたければただ、心の中を覗いてみればいい。
タイトルバックとともに流れるHappy Together。
答えのでることなんて何一つなくても、生きていける。
見終わったあと小さなろうそくの火が灯ったような気持ちになる作品です。
そして当然のことながら(笑)、映像と音楽の融合は素晴しい!!の一言。
トレイラー
↓
http://www.imdb.com/video/screenplay/vi3332768025/
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