石岡瑛子さんの名前を知ったのは沢田研二の『水の皮膚』という写真集だったと思う。
それからPARCOの一連の広告写真。
力強く、一種独特の性を越えた<人間>の強烈な存在感。
いくつかの映像は今でも頭の中にくっきり焼きついている。

『プロフェッショナル』で彼女の特集を見ました。

私の記憶にある80年代、石岡さんは主に広告のアートワークの世界で輝いていた。
しかしあらゆる意味で<型破りな女>であった彼女に日本は狭すぎたようだ。
日本を離れ、NYで黒沢映画に出会い、40代にして映画の世界に飛び込む。

ブロードウェイ史上最高の54億円をかけたミュージカル『スパイダーマン』。
物語の性質上、非常に重要な衣装デザインを任された彼女の仕事ぶりを、ピタリと張り付いたカメラが追っていく。
真っ白なアトリエ兼プライベートルーム。
真っ黒いシンプルな服、髪をすっぽり覆ったカラフルなシルクのスカーフ。
真っ白な紙に愛用の色鉛筆でデッサンし、色を乗せ、アイデアを形にする。
「(描いてるうちに)イマジネーションが固まっていくの。」
線が現れ、繋がり、形が浮き上がって色彩が見えてくる。

Originality=独創的
Revolutionary=革新的
Timeless=時代を超える

紙のデザイン画から衣装を制作する工程は、アウトラインを作っては手探りで微調整する
果てのない繰り返しだった。
「1ミリが世界を変える。」
時には舞台監督や、予算担当者と衝突しながら話し合い、説得する。
アーティストとしての直感と実体化するための交渉力。
どちらが欠けても実現できない。
物腰は柔らかだが、言葉は鋭い。
けれど傲慢さは全くない。

自分の中のイマジネーションは絶対的に美しい。
それを忠実に描き、組み立て、動かし空間を支配し、見る人たちに届けたい。
ただその衝動だけが71歳の彼女の背中を押し続ける。
小柄な体のどこから圧倒的なエネルギーが湧き上がってくるのだろう?

「本物を作っていけば、時代を超えて評価し続けられると思う。」

極シンプルで当たり前の言葉だった。
・・・当たり前と思ったのは私が、裏に累々と積み重ねられたものを、真の意味では
実感しえない場所に居るからだろう。

番組の中で紹介されていた『ドラキュラ』。
公開当時の映画のパンフレットだったか、雑誌のインタビューだったか。
彼女はゲイリー・オールドマンのセンス、俳優としてのプロフェッショナルぶりを絶賛しつつ、
共演のウィノナ・ライダーをかなり手厳しく批判していた。
プロとしての自覚がない、美しいものへの理解が浅すぎる、確かそういう内容だったと思う。
えらく手厳しいんだなとちょっと驚いたが、数年後その意味を理解する出来事(スキャンダル)があった。

アーティスト、有能な人、勇気ある女性。
どれもが石岡さんそのもので、どれかひとつには決められない。
その姿は、眩しくてとても美しかった。

コメント

MAYUKO
2011年2月16日21:35

HT様 こんばんは
「プロフェッショナル」再放送で見ようと思っていたのに忘れた…ショック
BSは絶対見よう
「ザ・セル」彼女のデザインの衣裳を見るために行きました
彼女の色使いが好きです。

>>紙のデザイン画から衣装を制作する工程は、
アウトラインを作っては手探りで微調整する
果てのない繰り返しだった。
「1ミリが世界を変える。」
時には舞台監督や、予算担当者と衝突しながら話し合い、説得する。


香川さんに語ったという「木村メソッド」にも通じるなと思いました。
ちょっと木村脳すぎますか…。

HT
2011年2月16日22:52

MAYUKOさまこんばんは♪

『プロフェッショナル』はきっとMAYUKOさまお好きだとおもいます。
超オススメ!

>香川さんに語ったという「木村メソッド」にも通じるなと思いました。

そういえば・・・!

実は他にもちょこちょこ「似てるかも。」なとこがあったのです。
仕事への姿勢だとか、方法論だとか。
石岡さんも、語らないんです。
「理屈じゃないのよ。」って。
仕事を見てよ、それが全てだから。・・・なところも似ていると思いました。
自分の中に確固たるイメージが描ける人の表現には力がありますよね。