余命いくばくもないと宣告された二人の男が、病院を抜け出し車を盗み、
「まだ見たことのない海」を目指す。
たまたま盗んだ車(超カッコイイベイビー・ブルーのベンツ!)に
ギャングの大金が積まれていたせいで、
警察とギャング両方から負われるハメに・・・。

というドイツのロード・ムービー。

クールでタフでハンサムなマーティンと真面目でやさしいルディ。
彼らを追いかける警察もギャングもかなりおマヌケで笑える。
それゆえ、二人の行き当たりばったりな計画もなぜかいい方向へと転がっていく。
気まぐれな神様がくれた人生最後の当たりクジの連続のようなもの?
盗んだ金で買ったヒューゴ・ボスのスーツに着替え、
ホテルのグラン・スィートに泊まってドン・ペリニョンを飲み、
「何をやりたい?」と無邪気に計画を立てる二人。
しかし脳腫瘍で余命いくばくもないと宣告されたマーティンはたびたび痙攣し倒れる。
だから、二人の逃避行ははちゃめちゃだけどすぐ隣には死の影がある。
見ている間中、大笑いしながらどこか虚無感が付きまとう。
『死』はいつかは訪れる。誰にでも等しく。
でもルーティン・ワークをこなすような日常は死から最も遠く、
私たちはそれについて深く考えずにいられる。
思いがけず命の期限を宣告されたとき、目に映る風景はぐらりと揺らいで
全てが不確かになる。
私ならどうするだろう?
混乱して立ちすくんで動けなくなるか・・・無理矢理にでもルーティンに没頭して忘れるか。

『今、天国で一番流行の話題はなんだか知ってるか?』
『天国じゃみんなが海の話をするんだぜ?』
命の期限は切られた。
Knocking on Heaven’s Door・・・天国の入り口のドアを叩いている自分。
二人にはもう怖いものは何もない。
警察に逮捕されようが、ギャングにとっ捕まろうが、どっちにしてももうすぐ死ぬんだから。

美しい印象的なシーンがいくつかある。
ヘビー・スモーカーのマーティンが咥えた葉巻を小さな女の子に渡すシーン。
どこまでもまっすぐ伸びるヨーロッパの田園風景の中を、
ベイビー・ブルーのベンツが延々走っていくシーン。
そしてラスト、夜明けの海辺で立ち尽くす二人のシーン。
本当は南の島へ行きたくてももう二人には時間がない。
目の前に広がる海は、どことなく淋しい色をしている。
強い風に煽られた灰色の波、淡くベージュがかった空気と二人の男。
海の潮の匂い、海辺の枯れた草の匂い、まだひんやりと湿った砂の感触。
『死』に近い男二人の感じた確かな生の感触が静かに伝わってきて、涙が出た。

ドイツ映画ってあんまり見たことがなかったけど、全体的に粒子が粗くグレイがかった色調で、
それが映画の雰囲気にピッタリで良かった。
あと、音楽。
なんとなくレザボアドッグスを思わせる選曲。
あそこまで洗練されてないんだけどね(笑)
ちょっと野暮ったいのが却っていい味が出てたと思う。
タイトルになった曲ももちろん出てくる。
歌ってるのはボブ・ディランじゃなくゼーリッヒというドイツのバンドでした。

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