一時間に$2000(!)という高級コールガール、チェルシー。

すぐ思い出したのは『ティファニーで朝食を』と『プリティ・ウーマン』。
ですがどっちとも違ってドキュメンタリー風。
こういうのは当たり/はずれが大きいのですが、面白かった。

時は2008年の秋。
オバマ大統領誕生前夜。
長引くテロの脅威、リーマンショックから続く不況。
1時間に$2000支払う余裕のある男たちですらストレスを抱え、
秘めた胸のうちを彼女に打ち明ける。
一方彼女のほうは『理想の恋人』を完璧に演じつつあくまでも仕事。
精神的な動揺は一切ない。
しかしある客の男に心を許してしまい、「素の自分」で振舞ってしまう。
きっちりガードされ完璧だった生活の歯車が、少しずつかみ合わなくなっていく。

彼女が男に惹かれるきっかけが面白い。
チェルシーはある性格占いにハマっていて、その男とは<最高の相性>だったから。
「彼こそ運命の人かも。」
一人の女の子として彼に会いにいくチェルシー。
不思議でした。
自分をコントロールし、クールに要領よく生きてるように見える彼女が、
なぜ占いに頼るのだろう?
実は彼女も客の男たち同様、不安感を抱えている。
だって1時間$2000稼ぐ高級コールガールの生活が永遠に続くわけがないから。
たとえまやかしであれ、未来への成功の保証がほしい。
それがたまたま占いだった、というわけです。
馬鹿馬鹿しいようですけど、政治家や企業のトップが重要な決定を下すときに
占いに頼る、なんて話、結構耳にしますよね。

「ストレス」という言葉が様々な人の口から出てきます。
今現在、危機的状況に直面はしてないけど、未来が今より明るいとも思えない。
他人に弱音を見せたとたん、一気に滑り落ちそうな危い栄光。
スタイリッシュだけど全体的に薄暗く不安定な印象の映像が、
そんな空気を上手く切り取っている。

チェルシー役の女優さんは人気ポルノ女優だそう。
エラ張り顔に黒々と描いた太い眉。
プロポーションは抜群だけど、そんな美人とも思えない(笑)
しかしバストアップを多用した映像は上手い。
チェルシーと向かいあって会話してる感じなんです。
カメラは彼女の日常のちょっとした仕草や表情の変化を繊細に巧みに切り取っている。
またこの女の子、存在感抜群なんですよ。
「素顔のきみが見てみたい。」男たちが彼女に呟く気持ちがよくわかる。
キャスティングの勝利。

77分という短さも良かった。
とにかく冗長になりがちなこの手の作品ですが、ぎゅっと圧縮したぶん
テーマが見えやすかったと思います。

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