先日GENGA展に行ってから読み返したくなって購入。

1970年代の日本へようこそ。

そこは昭和の日本。
しかし戦後すぐのノスタルジーでなく
学生運動を通過してちょっと斜に構えた若者たちと、
戦中戦後を生き抜いた驚異的に逞しき老人たちの世界。
一般家庭にもテレビは普及したけれどクーラーはない。
パソコンもない。コンビニもない。
暑苦しく、適度にビンボーで、しかしたくさんの人が<豊かな生活>を目指して
邁進していた時代の、ちょっとはみ出した人々の、ユーモラスで汗臭くて、
ちょっとだけダークな日常。
平凡な生活のすぐそばに、人知れず口を開いたマンホールの中から、
未知の闇の世界が手招きしていることを信じられるような、
まだそこここに暗闇の残る最後の時代。
バブルを境に、日本の社会からは<闇>が駆逐され、殺菌消毒が常識になり、
その分感染症は減ったけどアレルギーが増加した。
汗くささは消臭剤で押さえ込まれた分、他人の体温を感じる機会がなくなった。

…前置きが長くなりましたw

この漫画の中にはそういう70年代の人間しか出てきません。
大友氏の絵も、今より大層暗くて、あか抜けてなくて、だけどすでにとても上手い。
漫画というより、ニュー・シネマの短編集を見ている感じ。
おそらくご本人も漫画を書いてる意識よりむしろ、映画を撮ってる感覚だったかと。

全部好きなんですが、本のタイトルにもなっている「ハイウェイスター」最高。
家出した少女がヒッチハイクしているうちに知り合った謎の男。
フロントガラスもない落書きだらけのボロ車に、ドライブインで盗んだガソリンで
峠の山道を、現金を賭けてカーレース。
「趣味と実益を兼ねてやってるんだ」と嘯く男の正体は…?
ラストシーンの、少女の表情とこっちを見ている男の表情が、どこかとぼけてて、
しかし最高にカッコいい。

…今は描けないだろうなーこんなカッコいい漫画は。

ということで、次は『気分はもう戦争』を読みます。

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