ミラル

2012年7月26日 映画
ミラル
DVDで見ました。
http://eiga.com/movie/56359/

実在のエルサレム出身の女性ジャーナリストの
自伝的作品の映画化。
パレスチナ側の人々の目線から描く、
イスラエル占領下の東エルサレム。
私財を投げ打って戦災孤児のための学校を設立したヒンドゥ。
奉公先でレイプされ、家を飛び出してキャバレーのダンサーとなり、優しい男と
結婚したものの、心の傷から自ら死を選ぶナディア。
そのナディアの娘で、ヒンドゥの学校で学ぶミラル。
三人の女の半生を通して、占領下に生きる人々の姿を繊細に描き出しています。

パレスチナ人の土地に強引に入植したイスラエル人。
武力で土地を奪われ、人権を制限されたパレスチナの人々の怒り、屈辱、絶望感が
そこで暮らす人の目線で描かれる。
同時に、好奇心旺盛で美しい娘に育ったミラルの心の目を通して、世界中どんな場所でも普遍的に存在する心の働き…愛や慈しみ、挫折感や失望、憧れ、未来への希望が
ごく当たり前の感覚として描かれてもいる。
占領下のエルサレムの実情は日本人にはなじみの薄いものですが、女性目線で描いたことで、物語に感情移入しやすい。
そのさじ加減がいい。
また、母の自殺、占領下のエルサレムという過酷な環境の中で、ヒンドゥの導きと確かな教育、母の不在を埋めるような深く温かな父の愛情によって、ジャーナリストにまでのぼりつめるミラルの姿は、物語の最後、未来への希望と繋がる。
自ら命を絶った母ナディアと自分で道を切り拓くミラルとの決定的な違いは、
きちんとした教育を受けていたかどうか、なんです。
例えば「愛情と教育の大切さ」って口で言うとどこか白々しく感じますが(私はw)、作品の流れの中で無理なくそれに気づかされました。
それから、ミラルのお父さんが素敵なんですよー。
背が高く、手足もすっと長い彼が温かい腕の中に幼いミラルを抱きしめ、
成長してからも包み込むような目線で娘を見つめ、そっと救いの手を差し伸べる。
特にラスト近く、実の娘ではないミラルを精一杯愛した彼の言葉に涙が…。
ちなみにミラルとは、野に咲く真っ赤な花の名前。
路傍の花と同じ名前の女性。
ミラルはエルサレムの街で普通に見かけるような女の子だ、という意味が
こめられているんでしょうね。

監督は『潜水服は蝶の夢を見る』のジュリアン・シュナーベル。
ユダヤ系の彼がパレスチナ側の目線から描いたことに意義がある。
ただし映像はひたすら美しく、うっとりするような色彩に満ち、陰惨な印象は薄い。
作品が政治的になりすぎることを回避したのかも。
主演は『スラムドッグ$ミリオネア』の女優さん。つまり、インド人。
魅力的だし、自然なお芝居で個人的には好きですが、現地の方が見たら違和感あるんじゃないかなぁ…。
そこがちょっと気になったり(笑)

この作品はアメリカ人の監督さんが撮っていますが、最近アジアや中近東、
中南米が舞台の映画が面白い。
DVDで見た『ペルシャ猫を誰も知らない』というイラン映画も良かったですし。
http://eiga.com/movie/55032/

『ミラル』もですが、テーマを選びやすいのかもしれないな。
その点からいくと、日本やアメリカが舞台の映画が、私小説風かエンタメに偏りがち
なのは仕方ないのかもしれません。

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