超久々にハウル。

初っ端。
霧に霞む荒れ野の遠景にヘンな生き物みたいなハウルの城が不意に現れ、不格好に
移動しながら再び霧の中へ消えていく。
その少し手前では羊の群れがのどかに草を食む。
日常と非日常の、奇妙な共存と対比。

…という話を始めるとまた長々となってしまう。いかんいかん。

皆さんもうお気づきかと思いますので今更ですが、ハウルの声ってその外見と共に
どんどん変化していくんだよね。

初っ端、「ごめん、待たせたね?」と登場した金髪王子ハウル。
ヲタの自分でさえ、一瞬え?となってしまう変身ぶり。
とっても甘くてソフトで自信たっぷりのナルシストっぷり。
あの声で、耳元で囁かれたら大抵の女は「心臓?喜んで差し上げてよ♪」と
進んで餌食になってしまうでしょう。
(ハウルが心臓を取る、というのはただの噂なのですが)

そんなハウルですが、髪の色が黒くなった途端自信たっぷりの態度は消え失せ、
わがままで弱虫でお気楽な本来の性格が現れる。
「そうだ!かわりにソフィがいけばいいんだ。」
どこか少年っぽい外見にシンクロするように、声はいくぶん甲高くなり喜怒哀楽が
手に取るように分かる。

クライマックス。
制止するソフィを押し切って
「やっと守るべきものが見つかったんだ。」
家を守るために戦う彼の姿は、どんどん鳥(魔王)らしく変化していく。
その声は低く大人の男らしいがやや起伏に乏しく、彼の中で少しずつ人間らしさが
失われているのだなぁと実感させられる。

そしてラスト。
心臓を取り戻したハウルは、2番目の彼…弱虫でどこか少年っぽさを感じさせる声に
戻り、本来の彼らしさを取り戻す。

声質の推移はかなり顕著で、初見で「あれ?声が変わった?」と気づいたほど。
その変化は、たとえばキャラ作りのため意識的に声を甲高くするとか抑揚をつける
というテクニックによるものとは、レベルが違う気がする。
ハウルの外見の変化に引っ張られて、自然と声が変わっていく感じ。
ハウル<らしい>声を考えて作って喋っているのではなく、
丸ごとハウルになりきって演じている、というのかなぁ…。
どっかのインタビューで美輪さんが
「どうやったらあんなことができるの?少年が青年に成長する、過渡期の魅力を
声で表現するなんて凄い。」
とおっしゃっていたと記憶しておりますが、むべなるかな。



追記)
鈴木おさむのブログ。
すっごい共感する。
ただ…ドラマだけでなく役割として、キムタクを演じてる限りはゼロにはならない
のかもしれないなぁ。

コメント

nophoto
明石
2012年12月16日3:40

こんばんは。
宮崎駿監督さえ「行動原理が分からない」と言いながら絵コンテを描いていたハウルに
キムラさんが声を与えた途端に
「ハウルってこういう人だったんですね」と監督がおっしゃったという話がありましたよね。(既出だったらすみません。)
ソフィーに言う「上手だ」が実にもう、二枚目な声で。
「ハウルは、事前に練習しないほうがいいと思った」というキムラさんの発言もあったようですが、信じられない思いです。

「守るべきものが見つかったんだ。きみだ。」の言い方が意外と平板で、
「あれ?ハウルが急いでいるからなのか?」と疑問に思っていましたが、
人間らしい抑揚が失われてかけている、ということだったんだと納得しました。

「ハウル」の2年ほど前に美輪さんの「卒塔婆小町」の舞台を拝見して
うら若い美女と99歳の老婆を演じ分ける、本当に別人のような声の変化にびっくりしたことがあります。
その美輪さんがキムラさんの声の演技を、すごいと評していらしたのが嬉しいです。
「美少年が美青年になる頃って、魔女も好物かも」などと思っていましたが、
美輪さんには、少年期から青年期の、人としてのすがすがしさを尊いものとする発言もあるようです。
ハウルの場合は、少年期→青年期の独特の魅力が出ていたことを指摘しているのかと思うのですが、それはある種の色気と言っていいのでしょうか…

HT
2012年12月16日19:28

明石さんこんばんは。

↑の宮崎監督の言葉はとても象徴的ですよね。
「行動原理がわからない」というのは恐らく「人となりが見えてこない」という意味に
近い気がします。
それが「こういう人だったんですね」に変わったというのは、薄っぺらい架空の存在が、
声によって魂と肉体を得、個として立ち上がったという意味だと解釈しています。

>「ハウルは、事前に練習しないほうがいいと思った」というキムラさんの発言もあったようですが、信じられない思いです。

キムラが同じ主旨の発言をした役が一人居ます。
実は、Shitaoがそうなんです。
全く手がかりがないまま現場へ赴き、直感のまま演じきった、と。
ハウルもShitaoも神秘的で一種の浮遊感のある人物。
人となりを深く分析するより、その場の直感で演じたからこそ出てきた新鮮さが
あるのかもしれません。
「事前に練習しないほうがいい」というキムラの本能的な鋭さに驚かされます。

>それはある種の色気と言っていいのでしょうか…

美輪さんにとって色気と美とは切っても切れない関係かと(笑)