could ART change the world?JR@WATARI-UM
JRといってもJapan Railwayの略称ではありません。
紙やビニール、煉瓦、等々に引き延ばした巨大なポートレートを転写し、
建物や街角の壁面に貼付ける活動を続けている
ストリート・グラフィック・アーティスト。
1983年生まれのフランス人。
もちろん本名ではなく、活動上の匿名性を保つための
いわばペンネームみたいなもの。
青山のギャラリー・ワタリウムで初の展覧会を開催中。

この奇妙なアーティストの名前を発見したのは2012の『GINZA』5月号。
リオデジャネイロの傾斜地にある危険なスラム街。
数十段の階段をキャンバスに見立て、女性のポートレイトを全面に貼付けた。
町の全景では、傾斜地の家々の壁面が女性の顔や目の写真で覆われ、一つの町が
丸ごとギャラリーと化した壮大な光景に目を奪われてしまいました。

その様子と町の記録映像作品『Women are Heroes』
http://www.youtube.com/watch?v=CNzXKEC333c

子供や家族を奪われ、暴力やレイプで痛めつけられ苦しみながらなお、
生きて行く女性たちの顔。
笑顔もあれば厳しい表情もあるけれど、
「わたしの話を聞いて、何が起きたか知ってほしい。」と願い、
カメラを見据える女性たちの目は、凛として胸をうつ。
衝撃的だし、メッセージは強い社会性を帯びたものですが、
ユーモラスで何より美しい。
他にもインド、アフリカ、アジアの、主に貧困や暴力や差別に苦しむ国々で
ゲリラ的アート活動を続けるJRと仲間たち。

2011年、「世界を変えるアイディア」に賞を与える『TEDプライズ』を受賞した彼のコンセプトは
could ART change the world? =アートで世界は変わるか?
http://www.youtube.com/watch?v=eOxX_liGQJY

いや〜…言葉で説明し難いんですよねこの面白さは。
24分の長いスピーチですが、ヒップホップのラッパーのようなリズムの喋りと
エネルギッシュかつ、ロマンティックなほどの情熱に聞き入ってしまいます。

で、ワタリウム。
もちろんそんなにデカいギャラリーではないので、巨大な展示物は28ミリで撮影したビデオと写真でしか体験できないのが残念ですが…。
白い壁面に直接プリントされた3m×2mほどのポートレイトをいくつも
見ることができます。
最初に目に飛び込んでくるのが、ヘン顔で笑顔を浮かべているオッサンの、
三枚並んだポートレート。
思わずクスっと笑ってしまうようなユーモラスな表情ですが、作品の解説を読んで
ドキっとしました。
「イェルサレムの聖職者とパレスチナの聖職者」
彼はイスラエル側とパレスチナ側の両方で、教師、アーティスト、食品店主、タクシードライバー、学生等を撮り、二枚一組で並べてみせたのです。
イスラエルとパレスチナ。
壁のアッチとコッチで鋭く対立し、時には死者も出る二つの国家。
「だけど、人間対人間で比較すれば何の違いがあるんだ?
 まるで兄弟か双子のようじゃないか?」
人間は皆平等。人間同士分かり合える。
言葉にすると新鮮味が薄れたというか「それは建前。現実は違うじゃんか。」
とどっかで醒めてしまうんですけど、写真で並べてみせられると…なんというか…
頭で考えるより先に感覚と感情にダイレクトに揺さぶりをかけられる感じ。

あ〜…こうやって書いていてもうまく伝わらなくてもどかしい!
可能ならぜひぜひ経験していただきたいです、あの感じ。

ところで、JRは2012年の11月、東北の被災地を回っておよそ400名の人々の
ポートレイトを撮影し、町中でストリートギャラリーを開催したそうです。
で。
ここにアップした写真はワタリウムの2Fの天井付近の様子なんですが、丁度写真の
左下辺りに証明写真撮影用ブースみたいなスペースがあって、その中で写真を撮るとおよそ一分後、天井に空いた長方形の穴からポスター大に引き延ばされた自分の顔の
巨大なモノクロポートレートが落ちてくるのです!
それを持ち帰って好きな所に貼り、一緒に写した写真をワタリウムの特設HPに送ると
掲載されます。
これもJRのアート活動『INSIDE OUT』計画の一環なんだそう。
(私は撮らなかったのですがw)

カメラと28ミリビデオだけで世界のあらゆる地域に出かけてゆく身軽さ。
写真の能力と可能性を最大限に生かしたアイディアの新鮮さ。
アートをコミュニケーションの手段として自然に利用しながら、自分だけでなく
関わった人達みんなを巻き込んでゆくJRの軽いフットワーク。
新しい世代、新しいコミュニケーションの手段が生まれつつあるのかも…!
と、なんとなくワクワクした気分になりました。

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