広島に原爆を落とす日/つか こうへい著 (編集しました)
2013年12月30日 読書 コメント (2)
MAYUKO様が以前紹介されていた『広島に原爆を落とす日』。
凄い作品です。
読み始めてすぐに物語の世界に否応無く引込まれ、
時間を忘れて読み耽り、
最後は涙が止まりませんでした。
本でこんなに泣いたのは何年ぶりだろうか…。
主人公は二人の男女。
朝鮮王族の血筋でありながら、日本人に国を滅ぼされ、母・知淑と共に日本へやってきた犬子恨一郎。
差別に苦しみながらも誇りと名誉を追い求め、少佐の地位まで這い上がってきた彼は自分の愛国心は日本人以上と自負する男。
特異な名は誇り高い母が敢えて選んだもの。
王族の姓=李を捨てた自分たちは犬畜生以下だと名字を<犬子>とし、恨み忘れまじと息子に与えた名が<恨一郎(はんいちろう)>。
その恨一郎が愛した美しい女、髪百合子。
百合子もまた訳あって先祖代々呪われ蔑まれてきた賤民の一族の出身。
幼なじみの二人は自然に惹かれ合い、稀に見る美貌と芯の強さを備えた百合子に、
恨一郎は結婚を申し込むが、「朝鮮人の元へ嫁になどいけない。」と断られ、
愛の深さ故酷く傷つき、百合子への想いを断ち切るかのように、日本国を守る闘いに激しくのめり込んで行く。
時代は太平洋戦争末期。
日本の敗戦は決定的なのに、何故アメリカは敢えて原爆を投下したのか。
日本人より日本を愛した男が何故、投下ボタンを押す役目を自ら引き受けたのか。
ストーリーは二つの謎を巡って当時の日本の政界・軍、アメリカ大統領、ヒトラーとナチス・ドイツまで巻き込んで虚々実々の壮大なスケールで展開する。
もちろん史実とは全く異なる虚構の世界の架空の出来事、ある意味ファンタジー。
でも単なる夢物語を描くなら、これほど危険で挑戦的なテーマを選ばないはず。
日本、アメリカ、ドイツまで巻き込んだ複雑怪奇な物語は、人の欲望と哀しみを
壮大にまき散らしながら、最終的に恨一郎と百合子の愛の成就というただ一点に
収束していく。
そう、これは純愛の物語なのです。
人の想いが純粋で一途で清らかに光輝くほど、その向こう側には真っ黒な憎しみの
影が生まれる。
それが人間という生き物の避け難い業。
この世で一番深く重く、目も眩むような愛の証を百合子に捧げる。
その執念で生きる恨一郎が選んだのが、原爆投下のスイッチを押すことだった。
意味深に<エンジェル>と名付けられた、人類史上最悪の爆弾。
それが炸裂した瞬間、世界に死の天使が降臨する。
白い閃光と黒い雨を伴って。
現世では叶わぬ二人の恋が、熱線で無辜の数十万人を焼き払いながら成就する。
恨一郎は真っ赤なチマチョゴリを纏った百合子を遥か上空から目視し、その頭上へ
精確に爆弾を投下する。
彼の想いを、百合子は両手を大きく広げ、喜びを溢れさせながら受け止める。
夏の青い空/生い茂る樹々の濃い緑/中心に立つ真っ赤なチマチョゴリ。
上空からまっすぐ投下される黒い金属の塊。
白熱した閃光が全てを包み込み、焼尽す。
色彩のコントラストが引き起こす視覚イメージの強烈な生々しさ。
その美しさが行為の恐ろしさを圧倒し、むしろ高揚感とカタルシスを伴った感動を
引き起こした。
その時私は恨一郎と百合子の感情や感覚の一部を共有し体験していたに違いない。
この世で一番愛する人を自らの手で永久に消し去る。
その瞬間、彼女の愛は自分だけに注がれて俺の世界は至上の悦びに光輝く。
百合子は、永遠に自分のもの。
原爆投下直後、自分は腹を切るので介錯してほしいと恨一郎はB29に同乗したアメリカ人に懇願する。
「犯した罪は決して許されない。私の魂は永遠に宇宙を彷徨うだろう。」
「その長い時間の唯一の慰めが、かつて人を愛したという記憶だけ。」
恨一郎もまた、その瞬間に想いの全てを捧げる。
人類史上最初に核爆弾のスイッチを押した恐怖の名として俺は、人々の記憶に残る。
向けられる憎しみと蔑みが激しいほど、救いとしての愛の記憶は無限に強度を増す。
抱えた想いの強さだけが彼を、永遠の孤独に耐えさせる。
究極の愛の物語。
凄い作品です。
読み始めてすぐに物語の世界に否応無く引込まれ、
時間を忘れて読み耽り、
最後は涙が止まりませんでした。
本でこんなに泣いたのは何年ぶりだろうか…。
主人公は二人の男女。
朝鮮王族の血筋でありながら、日本人に国を滅ぼされ、母・知淑と共に日本へやってきた犬子恨一郎。
差別に苦しみながらも誇りと名誉を追い求め、少佐の地位まで這い上がってきた彼は自分の愛国心は日本人以上と自負する男。
特異な名は誇り高い母が敢えて選んだもの。
王族の姓=李を捨てた自分たちは犬畜生以下だと名字を<犬子>とし、恨み忘れまじと息子に与えた名が<恨一郎(はんいちろう)>。
その恨一郎が愛した美しい女、髪百合子。
百合子もまた訳あって先祖代々呪われ蔑まれてきた賤民の一族の出身。
幼なじみの二人は自然に惹かれ合い、稀に見る美貌と芯の強さを備えた百合子に、
恨一郎は結婚を申し込むが、「朝鮮人の元へ嫁になどいけない。」と断られ、
愛の深さ故酷く傷つき、百合子への想いを断ち切るかのように、日本国を守る闘いに激しくのめり込んで行く。
時代は太平洋戦争末期。
日本の敗戦は決定的なのに、何故アメリカは敢えて原爆を投下したのか。
日本人より日本を愛した男が何故、投下ボタンを押す役目を自ら引き受けたのか。
ストーリーは二つの謎を巡って当時の日本の政界・軍、アメリカ大統領、ヒトラーとナチス・ドイツまで巻き込んで虚々実々の壮大なスケールで展開する。
もちろん史実とは全く異なる虚構の世界の架空の出来事、ある意味ファンタジー。
でも単なる夢物語を描くなら、これほど危険で挑戦的なテーマを選ばないはず。
日本、アメリカ、ドイツまで巻き込んだ複雑怪奇な物語は、人の欲望と哀しみを
壮大にまき散らしながら、最終的に恨一郎と百合子の愛の成就というただ一点に
収束していく。
そう、これは純愛の物語なのです。
人の想いが純粋で一途で清らかに光輝くほど、その向こう側には真っ黒な憎しみの
影が生まれる。
それが人間という生き物の避け難い業。
この世で一番深く重く、目も眩むような愛の証を百合子に捧げる。
その執念で生きる恨一郎が選んだのが、原爆投下のスイッチを押すことだった。
意味深に<エンジェル>と名付けられた、人類史上最悪の爆弾。
それが炸裂した瞬間、世界に死の天使が降臨する。
白い閃光と黒い雨を伴って。
現世では叶わぬ二人の恋が、熱線で無辜の数十万人を焼き払いながら成就する。
恨一郎は真っ赤なチマチョゴリを纏った百合子を遥か上空から目視し、その頭上へ
精確に爆弾を投下する。
彼の想いを、百合子は両手を大きく広げ、喜びを溢れさせながら受け止める。
夏の青い空/生い茂る樹々の濃い緑/中心に立つ真っ赤なチマチョゴリ。
上空からまっすぐ投下される黒い金属の塊。
白熱した閃光が全てを包み込み、焼尽す。
色彩のコントラストが引き起こす視覚イメージの強烈な生々しさ。
その美しさが行為の恐ろしさを圧倒し、むしろ高揚感とカタルシスを伴った感動を
引き起こした。
その時私は恨一郎と百合子の感情や感覚の一部を共有し体験していたに違いない。
この世で一番愛する人を自らの手で永久に消し去る。
その瞬間、彼女の愛は自分だけに注がれて俺の世界は至上の悦びに光輝く。
百合子は、永遠に自分のもの。
原爆投下直後、自分は腹を切るので介錯してほしいと恨一郎はB29に同乗したアメリカ人に懇願する。
「犯した罪は決して許されない。私の魂は永遠に宇宙を彷徨うだろう。」
「その長い時間の唯一の慰めが、かつて人を愛したという記憶だけ。」
恨一郎もまた、その瞬間に想いの全てを捧げる。
人類史上最初に核爆弾のスイッチを押した恐怖の名として俺は、人々の記憶に残る。
向けられる憎しみと蔑みが激しいほど、救いとしての愛の記憶は無限に強度を増す。
抱えた想いの強さだけが彼を、永遠の孤独に耐えさせる。
究極の愛の物語。
コメント
渾身のレビューをじっくり読ませて頂きました。
感無量です。
初めて「広島に原爆を落とす日」手にし
一日で完読した若き日を思いだします。
この本は読む度に印象が変わる不思議な本です。
今はやはりどうしてもあのドラマと重なってしまう。
共通するキーワードは「究極の愛」
つかの作品に頻繁に出てくる
「あなたのために全世界敵に回して戦います」
「安堂ロイド」第1話
「君を護るためなら誰でも殺す。
世界中が君の敵に回れば全て殺す。
力なき正義など無意味だ。」
私はこの台詞がロイドの口から出た瞬間から
ずっと重ねて…見ていたのかもしれません。
こんな言い方は変なのかもしれませんが、
これが今、私の率直な思いなので…
「読んでくれて、とっても嬉しい!
ありがとうございます。」
とにかく圧倒されました。
あのヴォリューム、細部に至る人物描写の面白さなど、隅々まで楽しめる。
衝撃的な作品だけど、ギリギリのところでエンターテインメントに踏みとどまる。
これを書いたつかこうへい氏は素晴らしく聡明で感情豊かな方なんでしょうね。
今更ですが、故人であるのが本当に口惜しいです…。
>>「君を護るためなら誰でも殺す。
世界中が君の敵に回れば全て殺す。
力なき正義など無意味だ。」
もしかしてうえPはこの作品を読んだことがあるのではと思いました。
読んでから更に黎士とロイドのキャラクターが理解できたというか。
そして麻陽がああいう女でなければならなかった理由も。
もしかしたらつか氏とうえPの世界観の根底には同じものが潜んでいるのかも。
この作品を紹介してくださって本当にありがとうございました。
心から、感謝です!!