「勝って天下無双になってやる。」

呟いて文字通り決死の闘いに挑む。
修羅の顔をした武蔵が大映しになる。
動機はどうあれ、それは生き残りを賭けた闘い、食うか食われるか。
人間より寧ろ野獣に近い。
制御の術を持たない、知性や理性の干渉を受けない殺戮の本能。
血と泥に塗れた禍々しい姿。
刃が光り怒りに任せて相手を貫くときの武蔵の動きは、肉の重さや柔らかさを
リアルに感じさせるもので、私は何度かその感覚を自分の皮膚に感じた気がして
鳥肌が立った。
その動きはあたかも素早く複雑に綿密に計算され尽くした、洗練の極みのダンスをも
思わせて、荒々しい美しさ、剥き出しの熱情に戦慄した。

最後の一人に馬乗りになって彼の喉ッ首掻き切った瞬間。
武蔵はがっくりと頭をたれ、次に天を仰ぐように思い切り背を逸らした。
限界まで酷使し、あちこち斬られて出血しているであろう肉体が
朦朧とする意識のなかで仰いだ空。
カメラは高い位置から遺骸の上の彼を見下ろす。
天の視線から見た、ちっぽけな人間の営み。

コメント

nophoto
里奈
2014年3月18日15:50

76人斬り。
「一人 二人」 ではなく武蔵の口から出るのは 「一つ 二つ」なんですよね。
とっても象徴的だと思いました。

気がつくといつの間にか咀嚼している自分がいます。

HT
2014年3月18日21:52

こんばんは。

「一つ 二つ」
そうですね、象徴的ですよね。
武蔵は人間相手だと思ってなかったのかもしれない。
でないと…76人は斬れなかったかも。

咀嚼かぁ。
なんかすごくわかるなぁ。