76人斬って捨てた、という事実を事実として認識した武蔵の衝撃。
彼が剣を捨て農民として生きようと思ったのも無理はない。
(しかし血塗れの手の幻覚だけで説明するのはさすがに無理かと)
そして永遠のライバル、小次郎の登場。
(山賊と小次郎・武蔵の闘いは素晴らしいアクションの連続でありました)
己に巣食う剣の道への想いは、理性ではどうしようもない業だと悟った武蔵。
彼が村を出る決意をした日の顔は寧ろ穏やかで清々しくすら見えた。
その武蔵がかつて「もっと弱くなれ。」と諭した日観を再訪するのは必然。
「いいあんばいに弱くなったな。」
日観のいう<弱さ>とは何なのだろう?
武蔵は問う。
「仏に使える道と(人を殺める)剣の道との折り合いをどうつけているのか」と。
この問いに答える日観の言葉。
「白黒はっきりさせれば気持ちがいい。しかしその間の灰色の中で生きるのが
真の強さである。」
白は白。黒は黒。
言い切る者の強さは、この世を善と悪の二元論で斬って捨てるようなもの。
しかし人はそんな単純な世界には生きてはいない。
複雑な世界を力で単純化しようとすれば、それは蛮勇に過ぎない。
理性や知性が身に付くほどに世の中が見え始める。
蛮勇を捨て、善悪・敵見方の単純な二元論から脱却し、人間の曖昧さを受け入れる。
…それこそは76人をモノとして斬って捨てた武蔵に欠けていた部分。
ケダモノでなく人としての深みを身につけよ。
日観が「弱くなれ。」と諭したのはそんな意図では無かったか。
「答えは己の中にある。」
(指針は示した。答えはお前が一生かけてさがせ。)
その言葉に武蔵が思わず漏らした一言。
「実に…難しい。」
このシーンは前・後編通してもっとも緊張感のある山場の一つだと思う。
激しい斬り合いも見事な剣の技の競い合いもない。
しかし二人の会話はまさに真剣勝負である。
一気に懐へ斬りこんでいく武蔵の剣。
その刃を見事に両手でピタリと止めて諭す日観の老獪。
言葉を発する声に潜む、深い感情のやり取り。
それはドラマの台詞でありながらそれだけに止まらない。
演じること=生きること。
常に語ってきたキムラタクヤが、怪物的な存在感を放つ西田敏行に問いかけている。
…というように私には見えた。
役者にとって演じることとは何か。
正解・不正解はあるのか。
葛藤を、あなたはどうやって乗り越えているのか。
「答えは、ここにある。」のど元を抑える手。
息をし、声を発する喉、そして感じる胸。
奈良漬けを齧る音すら計算されつくしているであろう無表情の仮面の下の老獪。
「実に…難しい。」
そう答えたキムラの瞳は興奮しているときの常で泣いてるように潤み、口許は
泣き笑いのように、苦笑いのように微かに緩む。
(HERO SPの中井さんとの対話もそうだったけれど、更に深化している)
すっと膳を横へずらせ、美しい角度で床についた両手。
まっすぐ前を向いた日観(西田)と深々と頭を下げた武蔵(キムラ)を、
斜め上からのカメラが捉えた見事なワン・シーン。
彼が剣を捨て農民として生きようと思ったのも無理はない。
(しかし血塗れの手の幻覚だけで説明するのはさすがに無理かと)
そして永遠のライバル、小次郎の登場。
(山賊と小次郎・武蔵の闘いは素晴らしいアクションの連続でありました)
己に巣食う剣の道への想いは、理性ではどうしようもない業だと悟った武蔵。
彼が村を出る決意をした日の顔は寧ろ穏やかで清々しくすら見えた。
その武蔵がかつて「もっと弱くなれ。」と諭した日観を再訪するのは必然。
「いいあんばいに弱くなったな。」
日観のいう<弱さ>とは何なのだろう?
武蔵は問う。
「仏に使える道と(人を殺める)剣の道との折り合いをどうつけているのか」と。
この問いに答える日観の言葉。
「白黒はっきりさせれば気持ちがいい。しかしその間の灰色の中で生きるのが
真の強さである。」
白は白。黒は黒。
言い切る者の強さは、この世を善と悪の二元論で斬って捨てるようなもの。
しかし人はそんな単純な世界には生きてはいない。
複雑な世界を力で単純化しようとすれば、それは蛮勇に過ぎない。
理性や知性が身に付くほどに世の中が見え始める。
蛮勇を捨て、善悪・敵見方の単純な二元論から脱却し、人間の曖昧さを受け入れる。
…それこそは76人をモノとして斬って捨てた武蔵に欠けていた部分。
ケダモノでなく人としての深みを身につけよ。
日観が「弱くなれ。」と諭したのはそんな意図では無かったか。
「答えは己の中にある。」
(指針は示した。答えはお前が一生かけてさがせ。)
その言葉に武蔵が思わず漏らした一言。
「実に…難しい。」
このシーンは前・後編通してもっとも緊張感のある山場の一つだと思う。
激しい斬り合いも見事な剣の技の競い合いもない。
しかし二人の会話はまさに真剣勝負である。
一気に懐へ斬りこんでいく武蔵の剣。
その刃を見事に両手でピタリと止めて諭す日観の老獪。
言葉を発する声に潜む、深い感情のやり取り。
それはドラマの台詞でありながらそれだけに止まらない。
演じること=生きること。
常に語ってきたキムラタクヤが、怪物的な存在感を放つ西田敏行に問いかけている。
…というように私には見えた。
役者にとって演じることとは何か。
正解・不正解はあるのか。
葛藤を、あなたはどうやって乗り越えているのか。
「答えは、ここにある。」のど元を抑える手。
息をし、声を発する喉、そして感じる胸。
奈良漬けを齧る音すら計算されつくしているであろう無表情の仮面の下の老獪。
「実に…難しい。」
そう答えたキムラの瞳は興奮しているときの常で泣いてるように潤み、口許は
泣き笑いのように、苦笑いのように微かに緩む。
(HERO SPの中井さんとの対話もそうだったけれど、更に深化している)
すっと膳を横へずらせ、美しい角度で床についた両手。
まっすぐ前を向いた日観(西田)と深々と頭を下げた武蔵(キムラ)を、
斜め上からのカメラが捉えた見事なワン・シーン。
コメント