HERO#8.

2014年9月2日 TV
弁護士は人間の業の肯定だよ。良いところも悪いところもあるから面白い。
検事は陽の当たるところに居て正義を振りかざす。
清濁合わせ呑んでこそ。
確かにそこには一種の真実がある。
人は必ず陰を持つ。理想論だけで生きてはいけない。
小此木弁護士の言葉は含蓄に富み魅力的だ。
いかにもリアリティに満ち、人生経験を積んだ人間らしい重みがある。
ただし、それが個人的な後ろめたさの言い訳でない場合は。

その対比としての久利生は『陽の当たるところで正義を振りかざす理想論者』
に見える。
小此木が指摘するまでもなく担当刑事も、城西支部の検事たちさえも多かれ少なかれ
その目線で久利生を見る。
しかし彼がただの理想主義者でないのはすぐに証明される。
「久利生さん。あなたが一番危ないんですよ?」と刑事に釘をさされた時の彼。
クッ、と片方の口の端を上げ鼻で笑った「それで?」。
ここで私たちには、彼の人生が決して陽の当たる平坦な道ばかりではなかったことが
分かってしまう。
(鳥肌もの。このシーンは最高だよ、キムラさん!)
そして圧巻だったのが、権藤の釈放シーン。
威嚇する組員たちの方へまっすぐに歩いていく。
さり気なく周囲を確認しながら(後ろから成り行きを見守る目線の数を把握しつつ)
遠過ぎも近過ぎもしないちょうどいい位置にぴたりと立ち止まり、まっすぐ相手の
目線を捉え、挑発的に言葉を投げつける。
「全然納得できねぇ!」
カメラは久利生の後ろに回りこみ、首の後ろで組まれた手が映る。
全く無防備な体勢。
挑発に乗りその身体に触れれば、即逮捕のきっかけとなる。
そのことを考慮した上での、不敵な面構え。
なるほどなー…こりゃ場数踏んでますね、相当。
この久利生の強さって何なんだろう?
ただの命知らず野郎ではないし…小此木弁護士が出て来た時点で「おかしい。」と
直観した鋭さと駆け引きの上手さは相当切れる男だと思わせる。
それでいて愚直なまでに自分の責務を果たそうとする。

そうだなー。
私個人の感慨としては、久利生は異邦人なんだと思う。
前例や慣習で淀んだ場所へふらりと現れて、「当たり前」に疑問符を突きつける。
弁護士も検察も警察もヤクザも、お互い空気を読んで必要以上踏み込まずなんとなく
生きている、「当たり前」な日常。
その日常に異邦人=久利生は風穴を開けていく。
異邦人は人間関係や特定の社会システムの外側からやって来る。
だから、大上段に構えて人を啓蒙なんてしない。
暗黙の了解の塀をさりげなく乗り越え、良心のルールに従って動く。
人は驚き、訝しみ、時には胡散臭い目で見るが、やがてそのルールが実はとてもシンプルなもの・本質的なものであると気づく。

第一期のHEROには雨宮がいた。
彼女は城西支部と異邦人=久利生との橋渡しとして振る舞い、仮初めにも久利生に
支部の一員としての居場所を与えていた。
第二期のHEROには雨宮はいない。
麻木は久利生の事務官だけど、久利生を城西支部に溶け込ませるよりむしろ異邦人であることをより際立たせる存在に見える。
絶対的に異邦人であること。
たくさんの人たちが目的地に向かって行き交う通りの真ん中で、まっすぐ背筋を伸ばして立ち、顔を上げ、遥か遠くの地平線を見つめる男。

久利生公平がそんな男に見えた。

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