公式サイト
http://ysl-movie.jp/introductionandstory/

クリスチャン・ディオールの死後、メゾンを引き継いだ若き天才デザイナー。
大胆なフォルムと豊かな色彩。
メンズ仕立てのジャケットとパンツというマスキュリン・スタイルを提案し、
性別や人種を超えた「美」を追求し続けたモードの革命児。
その自伝的作品となれば、華やかなファッション業界の光と影を描いたスリリングな作品に違いない
…と思って見ると肩すかしをくらって戸惑うと思います。
これは純然たるラブ・ストーリー。
ちょっと他と違うのは愛し合う二人がどっちも男性ってこと。

天才的な美的センスと創作への情熱を持ちながら、内気で繊細で清潔で純真で、
自分を表現するのが苦手な青年、イヴ。
彼を演じるピエール・ニネ。
ビスクドールを思わせる白くきめ細かい肌に、昆虫の脚みたいに細く長い指。
その指が神経質そうにメガネのふちを触る仕草。
いつも伏し目がちで怯えたような大きな瞳。所在なげな表情。
一目でイヴの人となりがわかってしまう、見事な人物造詣。
同性愛者の彼を公私ともに支えたパートナーはピエール・ベルジェ。
二人はあるパーティで知り合い恋に落ちる。
人目を避けてセーヌ川にかかる橋の下、熱いベーゼ(キス)を交わすシーンがとても
とてもエロティック。
それまで抑えてきた欲望が一気に溢れ出すように、最初は控えめについばむ様に、
徐々に感情の高まるまま、深く激しく口付けるイヴ。
パリの空は灰色。
セーヌの水は暗い灰緑で寒々しいけれど、ピエールとじゃれ合いながら駆け出す彼は自由で幸福で籠から開放された小鳥のように可愛らしい。
このシーンが私は一番好き。

その後、徴兵のストレスから鬱状態になり、精神の病を理由にディオールから解雇されてしまうイヴですが、YSLのメゾンを立ち上げ、独創的なスタイルを次々に発表し成功を収めていく。
その影には彼の才能を愛し、その美貌と繊細な内面を愛し、政治的手腕を発揮して
忠実に守り抜いたベルジェの、影の支えがあったのは間違いない。
しかしその成功が皮肉にもイヴを精神的に追いつめていく。
創作し続けねばならないプレッシャーから逃れるかのように、お決まりのコース…
麻薬と酒と過剰な性行為でイヴの私生活は荒んで行く。
白くて細くて隅々まで清潔で、お堅い神学校の生徒のようだとからかわれていた彼が無精髭にワインと煙草、コカインでハイになって不特定多数の男と関係を持つ。
自分の忠実な愛を裏切り、自らを破壊していくイヴを、どうしても止められないベルジェの暗い瞳。
美しい男の、痛ましい荒みっぷりはしかし、とっても魅力的なのです。
壊れて行くイヴの姿はまるでファッションの神様に身を捧げる殉教者。
荒れ地のイエス、または預言者ヨハネ。

この映画を見ながら私は、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』を思い出さずにはいられなかった。
レスリー・チャン演じる奔放で美しい同性の恋人に翻弄される、トニー・レオン演じるゲイの男。
母のように守り、父のように闘い、恋人として愛す男。
裏切りを重ねながら、いつも最後には彼の元へ戻って来る男。
残念ながらこの作品は『ブエノスアイレス』ほどの哀愁や深い情感までは描き切れていなかったけれど。

作品中、コレクションのシーンが何度か出てくる。
衣装は当時のものを使用したらしく、オートクチュールならではの贅沢な素材や
細やかな手仕事はため息が出る程美しい。
モデルを演じる女優さんたちも皆、綺麗でコケティッシュで、まさに目の保養。
ジャン・コクトーやアンディ・ウォーホル、若きカール・ラガーフェルドなど
歴史的・世界的有名人(のそっくりさん)を見つけるのも楽しい。
(カールおじさんのゲイゲイしさはあからさますぎでちょっと笑ったけど)
打ちのめされるほどの重さや深さはないけれど、尋常でない美しさにどっぷり浸りたい気分にはぴったりだと思います。
丁度いい感じに秋ですし(笑)




いや~…。
ゲイ云々は別としても(私は大好物だけど)イヴ・サンローランのような役を絶対!
キムラで見たい!
…と強烈に思いました。
ピエール・ニネはあちらでは『Beau Garçon=綺麗な青年』と呼ばれているらしい。
コメディ・フランセーズの若手注目株だそうです。
首も身体もほっそりとしなやかで、指先まで神経の行き届いた細やかな表現や動きの美しさは、360度常に視線に晒されている舞台俳優ならではかも。
キムラは舞台経験こそわずかですが、コンサートという舞台でファンの目線に晒され続けてきたからか、肉体のコントロールが素晴らしい。
カジュアルな服だとあまり感じないんですけど、スーツやシャツ姿ってシンプルで
隙がない分、身体の動きがよーく分かっちゃう気がします。
ロイドのスーツ姿が美しいのはあの身のこなしがあってこそ。
SB Crystalのタキシードの似合うキムラはまさにBeau Garçonだと思うんですよね。
端正なスーツやシャツの似合う美しい男の役をいつか是非やって頂きたい。

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