今回の鍵は一人暮らしの父のアパートの鍵。
久が記憶を失う前に送られてきていた、黒い●マークのついた鍵。
この鍵の合う扉はしかし久の手で開かれることは無かった。
鍵を預けた恵より先に、孤独な父の部屋を覗くのはTVを見てる私たち。
狭く閉ざされたアパートの部屋で父は無言で久の出演したTV番組の録画を見る。
何度も何度も。
彼は、ほとんどの時間をそうしてやり過ごしてきたのだろう。
それは、巻き戻し/再生される映像が傷んで不鮮明なので分かる。
忘却は徐々に進行して、父の中の記憶は少しずつ曖昧になって行く。
息子の面影を忘れないように。
石化し記憶の海の一番底に岩となって固着し、死のその瞬間までそこにあるように。
何度も、何度も。
久と父が公園で語らうシーン。
久は11歳の時自分の前から消えた父の、失われた時間の記憶を聞きたかっただろう。
自分を捨てた父。ずっと恨んでいた人、ある意味人生を狂わせた人物。
その口から謝罪と後悔の言葉を聞き、少なくとも自分には愛された日々があったと、
確信したかったと思う。
父を赦すことで、自分を救いたい。
久がぽつぽつと語る話を、まるで最初から分かっていたかのように受け答えする父。
たぶん父の中には既に息子の立身出世のストーリーが出来上がっていて、
久が語る<現実の>人生の話など意味が無かったのかもしれない。
だから予想外の<事故>の話になった途端、父は久を認識できなくなる。
…遅過ぎたのか。
もしここで終わっていたら、父と久のエピソードは残酷な結末だったと思う。
あの坂道でのシーン。
久の手を取り、40代の大人の男を本気で叱りつける父。
「危ないじゃないか!どうして手を離すんだ!!」
…久は泣かなかったけれども私は涙が溢れてしまった。

ちょうど一年程前の父の死。
大学進学で家を出てから、父とじっくり話をする機会などほとんど無かった。
九州男児の長男で人付き合いに不器用だった父は、ユニークではあったが、
あまり自分の気持ちを語ることのない人だった。
棺の中の父の顔を見た時、死んだら人の記憶はどうなるのだろうと思った。
語られることのなかった感情、経験。喜びや哀しみ。
死んでしまった脳神経の塊の奥にストックされたそれらはもうすぐ灰になる。と。

久の手を握りしめた父の手の感触。
何がこんなに心の琴線に触れたのだろう。
ふと、父の死のひと月程前、父を見舞った時を思い出した。
人工呼吸器に繋がれてもう喋れない父の手を握った時。
信じられないような強い力で指を握り返してきた。
目は、私の顔をじっと見つめていた。
言葉に出来ない感情…人間の想いというのは本当はそういうものかもしれない。
父の手は、ひんやりとしていた。

この物語はシビアに見えるけど人を見つめる目はどこまでも優しい。
2話の山野辺のエピソードがそうだったように。
父と息子の失われた時間は戻ってこないし、久が父から聞き出せる話はもう、
ほとんど残っていないかもしれない。
けれど、父は久の手を掴んだ。
その手は、たぶんとても温かい。


もう7話です。
TV雑誌に6/18最終回と掲載されていたらしいので、全10回かぁ。
原作では母親が認知症の設定だったらしい。
久と父、久と良雄。
二組の父子のエピソードが久を軸にシンクロしていく構成がお見事。
地味だけど丁寧に計算され尽くした脚本でした。
キムラと北大路さん。
MAYUKO様が、華麗では手を握ることすら無かった父子が…と呟いていて。
ベンチに並んだときのバックショットなんて、背中で語るとはこういうことかと。
いい役者さんですよね、二人とも。
なんでしょうね、あの空気感。
過去、親子共演した二人が月日を置いてまた…という現実と、ドラマの中の設定とが
完全にシンクロしていたのかもしれません。
素晴らしいキャスティング。
ソーシャルワーカーさんの「似てませんよね?」の一言も効いてたな(笑)

昨日の怒濤のラストシーン。
恵のファイルを見てしまった久。
凄かったよね…あそこの表情。いわゆる<驚いた顔>じゃないんですよね。
何となく予感があって、ファイルを開くのも後ろめたいから逡巡するんだけど、
ついに開いちゃう。
予想はしてたけど、やっぱりショックで…そりゃそうなんだけど…恵に腹立てるより
見ちゃった自分に後悔して狼狽えてる感じ。
無言。
目の動きと顔の角度だけで、色んな感情がどっと押し寄せてるのを表現する。
なんて繊細で豊かなお芝居する人だろう。
そこに帰宅した恵も良かったなぁ。
彼女も予想してたはず。で、久の顔を見た瞬間、わかったと思う。そんな表情。
アイムホームHPにキムラの長いインタビューがアップされてたけど、上戸さんと
演技プランについて喋ったりあまりしないそうですよ。
自然にああいうお芝居になる、って。
役者さん同士の関係性ってやっぱりお芝居に反映されちゃうんだな。
そんな二人に、来週はついに!!愛人登場!!!!
恵はどうでるか?
見た目よりずっとしたたかそうな彼女…楽しみだ。

そうそう、PCのファイルを巡るエピソードもシンクロしてましたね。
去年の5/31。
子供の遠足を口実に帰宅した久が何処かへ隠したファイル。
勅使河原が「思い出さないほうがきみのためだ。」といい、小机さんがどうやら久を監視しているのはそのせい。
何をやらかしたんだ?久!
あと3話。一気に伏線回収、くるか?

ああそれと。
ココに来てなぜか一気に色気が増した久さん。
もしかしたら…過去の久が浮上しつつあるのか?
ロンバケやチェンジがそうだったけど、この手の役柄を演じるときのキムラは大抵
折り返し地点からオーラを放ち始めるんですよねー。
別になにが変わった、ってわけでもなく。
やっぱり…細胞レベルでなり切っちゃうヤツだから?

コメント

nophoto
裕子
2015年5月30日15:20

HI様とMAYUKO様のブログを読んで涙が止まりません・・・

ひとの遍歴の奥深さを7話とお二人の文章の中にひしひしと
感じております。

HT
2015年5月30日21:29

裕子様。

嬉しいお言葉をありがとうございます。
アイムホームというドラマは普遍的でありながら一つとして同じ形はない、家族を
テーマにしているだけに、人それぞれの受け止め方があるんでしょうね。