浮世絵と江戸のダンディズム
浮世絵と江戸のダンディズム
浮世絵と江戸のダンディズム
昨日は太田記念美術館と根津美術館をはしごしてまいりました。
太田記念美術館は原宿駅から徒歩5分。
そこから表参道をまっすぐ15分ほど歩いた突き当たりに
根津美術館があります。
どちらも現在は『江戸』をテーマの展示を行っているので、
ぜひセットで!と、Twitterで紹介されていたのです。
https://twitter.com/ukiyoeota/status/603742811649892353

太田記念美術館は浮世絵専門の美術館。
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp
今回の展示テーマは『江戸の悪』。
江戸時代、盗賊や悪党が捕まるとその悪事の数々が
庶民の好奇心をかき立て、様々な逸話が脚色されて
熱心に読まれていたそうです。
残虐な殺人、盗みから色恋沙汰が引き起こす怨念物語など。
好んで浮世絵に描かれ、歌舞伎の題材となって上演されたと。
有名な「お岩」や「番長皿屋敷」を描いたものもありました。
浮世絵には二つのパターンがあるなと思いました。
一つは物語のクライマックスを想像力に任せて描いたもの。
もう一つは当時の有名な歌舞伎役者がその物語を演じている場面を描いたもの。
前者は物語りの挿絵的なイメージで、後者はある種のブロマイド的な役割だったのか
なぁと思いました。
浮世絵には独特の様式美みたいなものがあって、遠近感とか人物のポージングとか
全く写実的ではないのですが、描きたいものがはっきりしていて、イメージとしては
コミックに近いのかなぁと。日本のマンガ文化は世界でも特異な発展を遂げてますが
元祖は浮世絵にあるのかもしれません。
作家によって描き方に個性があるのですが、凄惨さ、人の情念の暗さが一番滲み出てたのは月岡芳年の作品だったな。
描きたいものがハッキリしている。
一番怖かったのはこの方の描いた安珍清姫。
びっしょり濡れて長い黒髪が着物に張り付いてる清姫が、ずるずると岸に上がって
きたと思われるシーン。もうね…はんぱないっすよ、清姫…。濃過ぎ…。
浮世絵を見るたびに、ああ、歌舞伎を見てみたいなぁって思います。
あの中に描かれている人物の、芝居がかったポージングや平面的ながらドラマチックな画面構成は、たぶん歌舞伎の舞台を想定してるんじゃないかなと。
なので、舞台をみれば描かれた世界への理解も深まり、面白さが増すに違いない。
…と思っております。
余談ですが、たまたま隣に居た10代後半〜20代前半と思われる女子二人。
弁慶と牛若丸を描いた作品に釘付け。
「うわぁ…おっさんカッコいい!」「牛若丸、綺麗!」
「この感じ、薄い本だと上手く出ないんだよねぇ。」
「浮世絵、いいわぁ。見蕩れる…」
(注:薄い本=同人誌のこと)
…どうやら浮世絵は腐女子にも大人気のようです。


太田記念美術館を出て表参道をまっすぐ歩きます。
昔、骨董通りと呼ばれ、雰囲気のある雑貨屋やアンティークショップがぽつぽつと
並んでいたあたり、現在はプレステージブランドの旗艦店が軒をつらね随分様変わりしていました。ヨックモックとフロムファースト位でしょうかね変わらないのは。
…などと時の流れを感じつつ。
根津美術館に到着。
こちら、数年前に建て替えられたのですね。
実に素晴らしい建築です。
隙間なく植られた竹が外界をシャットアウトしたファサード
美しい直線的な構成が和の空気を醸し出し、来館者はここを通ることで別世界へと
導かれるような気分になります。(写真1、2)
昨日は真夏のように暑く、お腹も空いて来たのでまずNEZU cafeへ。
ここがまた素晴らしい内装なんです。
美しく整えられたお庭を通って中へ。
三方が大きなガラス窓になっていて、そこから見える庭園の緑の演出がお見事。
(写真3)
もうね、東京の、青山の、ど真ん中なのに!!!信じられません。
京都の嵐山あたりの料亭の景色かと(*あくまで想像です)
窓から見える巨木の幹、瑞々しい緑。それらが一幅の画のように切りとられている。
いや〜…建築家さんの力って凄いですね。
もう、建物見にくるだけでも満たされますよ、根津美術館。
いや、ちゃんと展示も見ましたけど。

こちらは『江戸のダンディズム』がテーマ。
展示されているのは、刀と薬籠。
専門的な知識が全くないので、見たままの感想しか無いのですが…。
江戸時代の武士にとって刀って武器というより装飾品だったのですね。
それも頗る豪奢な。
抜き身の刃も多数展示されていたのですが、その怜悧な輝き・精緻を極めた形。
わずかな刃の曲線も焼き入れの色や形も、それぞれ個性がある。
一切無駄のないフォルムのために、どれだけの技術と尽力が必要だったでしょう。
きっと作り手の中に理想のフォルムが存在していて、そこへ近づくために炎と熱と
戦いながら鍛えあげていく、鉄。
本来、人を殺傷するための道具には、持つ側の気魄と覚悟が要求されるのと同様、
作り手も同じ高みを目指したに違いない、と思いました。
それだけ精魂込めて作られた刃に加えられていく鍔や柄、鞘などの装飾も素晴らしい
ものがあります。
貴石や象眼、漆塗り、蒔絵。当時の技が随所に使われた素晴らしい工芸品。
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/
江戸のダンディズム。
刀というものへのイメージが180度変わってしまいました。

太田記念美術館も根津美術館も個人所有の美術品を展示している美術館です。
教養とセンスがあり、良いもの・美しいものを私財を投げ打って収集し、たくさんの
人たちに見てもらう。
欧米の美術もですが、教養のあるお金持ちが居てこその発展・保存なのですよね。
根津美術館とその周りの庭園は根津さんという方の私財だったわけですし。
本当のお金持ちって有り難い存在だよなぁ。と実感した次第。
江戸を巡る二つの美術館巡りをして気づいたこと。
外国人が多い。そして意外なほど若い子が多い。
太田記念美術館なんて、土曜日ってこともあるだろうけど、1/3は10〜20代ですよ。
場所柄もあるだろうけど、Twitterでこまめに宣伝してるのも大きいだろうなぁ。
あ、太田記念美術館のグッズ、すごく可愛いんですよ。
国芳の浮世絵の猫をモチーフにしたガーゼ手ぬぐいとか便せんとかシールとか。
来るたびにお土産としてついつい買ってしまいます。

コメント

たぬきん
2015年6月14日9:49

い〜き〜た〜かった〜〜〜〜〜!!!!!ヽ(`Д´)ノウワァァン!!

浮世絵大好きなんだよ〜〜!・゚・(ノД`)・゚・
本当に構図とか素晴らしくて、漫画の見せ場みたいなんだよね。集中線の使い方なんて、今普通に漫画で使ってるまんまだし。日本が漫画大国になったのも分かるw

そして、私も詳しい訳じゃないんですけども、日本刀見るの好きなんですよね(´∀`*)鞘とか鍔の細工って本当凝ってるし、渋いし素晴らしいのが多くてね。

しかし、建物も素晴らしいね!行きたいなぁ…(´・ω・`)
今度上京したら、連れてって下さいましね!(人´∀`)

HT
2015年6月14日21:45

たぬきの呪い…?

>>集中線の使い方なんて、今普通に漫画で使ってるまんまだし。

ああ、あったあったよ!悪い妖怪・妖術使い大集合!!みたいな浮世絵で、モロに。
本当にマンガの集中線でしたわ。
そのまんま、アングラ演劇のポスターになりそうな絵面であった(笑)

日本刀の鍔や鞘の意匠で蕨を採用してるのがあって、明治の作なんだけど、完全に
アールヌーボーでしたわ。
個人的には真っ黒な漆に繊細な銀のラインで波に映る月を描いてた一本が最高に
美しいと思いましたわ。近くで見ないと分からないような控えめさだけど、
ぐぐっと引込まれる。これ見よがしじゃないのがダンディズム。

>>今度上京したら、連れてって下さいましね!(人´∀`)

うん!


気が向いたらw

たぬきん
2015年6月14日22:10

気が向いたらなのかよw

>真っ黒な漆に繊細な銀のラインで波に映る月を描いてた一本

文字だけでもゾクゾクしますな(*´Д`)
いいねぇ、江戸のダンディズム!!

HT
2015年6月14日23:50

嘘。
今度は根津美術館と太田記念美術館な。
あの細工、たぬきんに見て欲しかった!
素晴らしかったよ。

nophoto
たた
2015年6月20日22:30

HT様
 何がきっかけでブログを拝見するようになったかはっきりしないのですが、時々訪問させていただきております。
 ご紹介いただいた根津美術館、行って来ました。展示、庭園の佇まいともすばらしかったです。私も演劇と美術館巡りのブログをしていて、美術館によく出かけるのですが、根津美術館は初めてでした。ありがとうございます。

 もう少し時期が遅いかもしれませんが、横浜イングリッシュガーデンのバラ、昨年ブルーバーユーが本当に美しかったです。アクセス等、ホームページでご覧になれます。都内近縁でお住まいのようですので、もし行っておっれなかったら、お勧めです。それではまた

HT
2015年6月20日23:20

たた様、はじめまして。

コメントありがとうございます。
根津美術館に行かれたのですね。
美術館は作品を堪能するのももちろんですが、施設も気になりますよね。
品川の原美術館はご覧になられましたか?
古い洋館を改造した建物で、ここも中庭に面したカフェが最高に素敵です。
規模としては小さいのですが、雰囲気のいい場所ですので、未体験でしたら、是非。
*コメント欄にURL貼れないので『原美術館』で検索してみてください。
現代美術が中心の展示です。

横浜イングリッシュガーデンは知りませんでした。
秋薔薇が見れるでしょうか…。
情報ありがとうございます。
またどうぞお立ち寄りくださいね。

nophoto
たた
2015年6月21日9:35

HT様
 お返事をいただいて嬉しく思います。原美術館は2005年にオラファー エリアソン『影の光』展の際に出かけました。現代美術、どちらかというと抽象度の高い作品が好みです。
 フランシス・ベーコン展の時のHT様の記事が素晴らしく、ベーコン展に行こうかと迷っていたときに、背中を押していただき、とてもよかったと思っています。自分のブログを知られるのは躊躇するのですが、もしよろしければたたとにせ猫というので検索していただければ出てくるかもしれません。ベーコン展に行った時の記事もあるので、感想をうかがえたら幸甚です。
         それではまた

HT
2015年6月21日19:21

たた様、こんばんは!

早速おじゃまさせていただきました。
フランシスベーコン展がご縁だったとは。もうあれから2年以上経つのですね。早い。
たた様のブログ、ブックマークさせていただきました。
ベーコンの記事、拝見させていただきますね。ご紹介ありがとうございました。