ドキッとした。
ページから目が離せない。
誰だこれ?
いや、知ってるけど。
木村拓哉だと頭は分かってるけれど、飲み込めなくて。
見たことのない顔で、佇まいの、その男。
サイドを刈り上げたオールバック。黒縁メガネ。削げた頬。細い眉。
リメイクみたいな古着っぽいデザインのライダース、濃いピンクのニット。
そして、例のイーグルのネックレス。

「だれだろうこの人?」
とドキッとするのは、スマスマが放映されてた頃にもあった。
ムードというか、空気感が違ってるというか。
脚本を読み、その役を生きるため、記憶の倉庫を開き、手がかりを探す。
ぴったりくる感覚と感情を見つけ出しそっと引き出しを開く。
中から出てきた「記憶」が「想像力」と絡み合いながらゆっくりと広がっていく。
深いところに根を下ろし、徐々に枝葉を伸ばし、隅々まで行き渡りながら、
やがて細胞の一つ一つにまで侵入する、様を想像する。
それは役作りとか成りきるとかとも少し違う。
どんな言葉がぴったりだろう?
と、思いついたのが『同化』。
彼がドラマなり映画に向かう時の感じはきっとそういうことだと勝手に思っている。

レギュラー番組のない今、それでも毎月届くUOMOのページで、木村拓哉が
変化していく感じをしっかり見て取れるのは、とても幸せで、同時にもどかしい。
これを撮った時はたぶんマスカレードホテルの撮影中だろう。
でもBGの撮影に入る直前とも言えるかもしれない。
どっちだろう。動くとどんなふうだろう。
こんな感じで、鋭くて・・・こちらを見据える感じにまたドキッとする。

いい男になった。

触れれば血の滲むような鋭さで内面の脆さを守っているように見えた20代。
栗色の長い髪がよく似合う中性的な色気を振りまいていた30代。
こんな人は見たことがない。
とても不思議な歳の重ね方をする、と思った。
同時に不安にもなった。
もうすぐ40代。
この人は全うに歳を重ねられるのだろうか?と。
・・・あれは、アイドルとしての木村拓哉の顔でもあったのだろうか。
彼の中の深いところにアイドルとしての木村拓哉を密やかに保っていたのだろうか。
普通の、「人間らしい」歳の取り方を拒否し、肉体のリアリティを押し隠して。
もしかしたら・・・「アイドルを降りた。」と宣言した時、
彼の中で『脱・同化』が起きたのかもしれない。
30年近くじぶんの内側に保ってきた「アイドル」のムードを脱ぎ捨てた時、
45歳の年齢のままの男の姿が現れた、気がする。
45歳の、美しい佇まいの男。

幼稚園時代、代々木八幡に住んでいたという木村。
思い出の場所を歩き、幼い頃から習っている剣道の防具店のおばさんと撮った一枚。
屈託のない笑顔。
おばさんの笑顔にも全く緊張感がなくて、良い関係性が見て取れる。
生き生きした情景描写が、文字の連なりの隙間から息遣いを伝えてくれる。
暗いトンネル、青年座の稽古の声が怖くてダッシュで駆け抜ける小さな男の子。
毎日同じ店にたい焼きを買いに行く小さな男の子。
おばあちゃんのお土産の海苔巻きが大好きだった小さな男の子。
今月、彼の撮った一枚。
その時の自分の目線を再現したくて、低いアングルから撮ったトンネル。
見ているうちになぜか、涙が出そうになった。

コメント

nophoto
はなこ
2017年11月30日22:54

私もhtさんの文章を拝見してして涙が滲んできました。確信を突き冷静に木村さんを分析しながら心からの言葉が胸に響きます.何度も何度も雑誌とhtさんの文章を見比べては頷くばかりです.木村君の覚悟を持った大人の佇まいにこれからの未来を感じます.今まで培ってきたものが必ずや力になると確信しています.余計な事ですが元同じグル-プの人達のだらっとした顔からも立位置が余りにも違いすぎると改めて思うのです.私は文才が無いのでhtさんの文章を拝見すると目から鱗です.有難うございます.

HT
2017年12月2日21:05

はなこさんこんばんは。お返事が遅れて申しわけありませんでした。

私が木村のファンになったのはギフトです。
役者として彼を認識し、その後SMAPの彼を見て、しばらくは違和感が大きすぎて
馴染めませんでした。
しばらくしてそれは薄れていきましたが、彼の立ち位置はこれでいいのだろうか?
との思いはずっと付いて回っていた気がします。
なので、時間はかかったけれども彼はようやく「あるべき」場所へと戻ってきたと、
そんな風に感じています。
他の4人をきちんと追いかけてはいなかったのですが、それぞれが相応しい場所へと
落ち着いていくんだろうなぁと思っています。
木村がどこを向いて進んでいるのかは、UOMOの眼差しが語ってますよね。

nophoto
裕子
2017年12月4日18:42

HT様

ご無沙汰しております。
先日漸く「無限の住人」のDVDを購入出来、メイキングのところを
じっくり見せてもらいました。
遅まきですが、あの騒動の真っ最中での仕事への集中力に改めて
感動してしまいました。そして酷な言い方ですが、あの騒動が彼の
仕事への情熱をイヤが上にも燃え立たたせたのではないかと。
木村さんはあまり情感を日常では示さないけど、出来上がった作品には
「情熱なくしてはなにごとも達成できない」という彼の想いがびんびん
伝わって来ます。
最高のアイドルだったものだけが最高の大人の俳優になる、と思っています。
(もっとも青年らしかったものがもっとも大人らしい大人になる)
それを木村さんは証明しているように思えます。中途半端なアイドルとしての生き方をして来なかったからこそ
今「45歳の年齢のまま男が現れた。45歳の、美しい佇まいの男」

それからメイキングを見ていていつも思うこと。
木村さんには風姿花伝にある「離見の見」があるということ。
自分自身の姿を後ろまでも見えるように心に描いているのではないでしょうか。
だからあんなにも後ろ姿が美しいのではないでしょうか。
「無限の住人」でも沢山ありました。きっと三池監督もそれに気づいておられた
のかも知れないなと。

UOMOの木村さん、HT様のおっしゃることすべてに同感でございます!
来年のドラマを考えると生きていく喜びを感じます。

nophoto
なきべそかき
2017年12月7日14:50

こんにちは。
初めまして。
解散騒動のころから、木村さんをしっかり見るようになりました。それまでは全く興味もなかったのですが、昨年暮れのスマスマの異常さには何一つ知らなかった一般人の私でも違和感が大きく、切ない気持にさせられました。
今年、無限の住人をスクリーンで見て、すっかり木村さんにノックアウトされてしまい、映画館に6回通いました。ラジオを聴くようになり、uomoを読むようになり、1月号の写真を見て、衝撃を受けました。
見た事のない、新しい表情。誰、この男。その気持ち、すごくわかります。この人は、毎回、毎回、変化してい行く内面が、姿に現れるところを、潔く見せてくれる。
自分を偽ってカメラの前に立たない。そのすごさには脱帽します。膨大な過去の素敵な写真、それぞれの年齢において、いつも素敵でした。でも、一番新しい木村拓哉が、いつも、一番素敵だな、とおもう気持ちを、改めて気づかせてくれたその姿。
凄い、の一言につきました。
文章を読ませていただき、とても共感しました。
ありがとうございました。

HT
2017年12月7日20:55

裕子様、お久しぶりです。

木村のある言葉を思い出しました。
「あの時、暴れられる場所があってよかった。」という意味のことを言っていた。
暴れる、というのが破壊や大仰な感情表現でなくもっと内面的なこと、
裕子様のおっしゃる『情熱』の発露であったのかもしれません。
プレッシャーで荒む人とガソリンに変える人があるなら、彼は確実に後者ですね。

それと風姿花伝の「離見の見」。
体の外側から自分を眺めてるのではないか?と思える瞬間が何度もありました。
それは訓練だけで身につくものでなく生まれながらの素質も大切ですよね。
運動能力が高いだけでは駄目で、人にどう見えるか?をしっかり理解できる賢さ、
感じ・受け取る器の大きさや豊かさが欠かせません。
それらを備えた者を見抜く三池監督とがっつりやれたのは幸福でしたね。
またあんな木村を見たい。
いや、きっと見れますよね。

HT
2017年12月7日21:03

なきべそかき様、初めまして。

ある日突然「この人!」って好きになることってありますよね。
私がまさにだったので、わかります。

>>毎回変化していく内面が、姿に現れるところを、潔く見せてくれる。

そうですよね。
前の自分に拘らないって、彼のような位置にいる人では難しいはずなのに。
潔く脱ぎ捨て、全力で、予想以上のものを見せる。
年をとることを恐れていないんだなと思います。
だから、一番新しい木村拓哉が一番素敵に見えるのかも。
次の木村にワクワクできる私たちは幸せ者ですよね!