「俺の取ってきた命を最高の料理にして欲しい。 」
「頼んだぞ。」


「生きとし生けるもの、いただいた命は余すところなく美味しくいただく。
そのために料理人がいるんです。」


もう何も言うことはないですよね。
その通りです。
食べる、は、命をいただくこと。
「食と命」が3話の大きなテーマでした。


ジビエ( gibier)=食材として捕獲された野生の鳥獣を指す。
*wikipediaより引用

野山で過酷な生を生き抜いたケモノ。
その肉を食す時、命を頂いているのを意識する。
食べ慣れた牛・豚・鶏と明らかに違う風味。
その肉が皿に乗るまで、どれだけたくさんの人の手が加わったのか。
一皿の起源を遡る。
こだわりのジビエ料理人は猟師でもある。
銃を使わず罠で生け捕り、山で解体せず家に連れてくる。
(持ってくる、ではなく連れてくる、の言い方も印象的)
作業場に神棚をしつらえ、山の神に手を合わせる。
彼のジビエ料理は、あの尾花がひっくり返りそうになる味。
最高に美味しい料理で提供するのが礼儀。
冒頭のセリフを聞いた時、命への畏敬と尊敬の念が伝わってきて
じわっと涙が溢れました。
その思いの重さを、礼儀を尽くして受け止め、料理に生かす。
尾花の言葉もまた、一点の曇りもない。

gakuの凝りに凝った一皿。
まさに皿の上のアート。
パッと見ではどんな料理なのか想像すらつかない。
ここでは極上のロース肉はあくまでも素材。
シェフはアーティスト。
素材の良さを生かす手立てはちゃんとある。
が、店としてのコンセプト、驚きと意外性を優先させる。

グランメゾン東京の一皿。
直球で肉を主役に持ってくる。
でも味付けは斬新で新鮮。
ソースの野生的な風味の元が鹿の生き血だと審査員は気づいたろうか?
ドラマを見ている私はその一皿に辿り着く長く困難な道のりを知っている。
この一皿はこうでなければならなかったんだなと心から納得する。
食べてみたい。どんな歯ごたえで味わいで香りなんだろう?と。

「お前にはこの料理のすごさがわかるはずだ。」
京野から受け取ったロティを食べる平古。
パリ時代の尾花の完璧主義を知っているからこそ、あの味に辿り着くまでの
困難は容易に想像できる。
良いロースが手に入らなかった事実もわかっている。
モモ肉を用意した彼だから自分が関わった料理でもある。
チームワークの力。
それぞれが個性を生かし、諦めず全力で取り組むことの尊さ。
色んな気持ちや知恵が詰まっている。
今の自分と比較する。
様々な思いが極上の味わいと共に口の中に広がり、喜びと切なさと愛おしさが
心をかき乱し、涙になって溢れる。胸が痛くなるような表情。
尾花と倫子のチーム、その味に心惹かれている。
借入金も鹿肉も平古無しでは成立しなかったから、尚更だ。
しかし彼には彼の立場がある。
パティシエの萌絵、画鋲娘wの美優との関係も気になります。

ジビエ対決。
勝利したのは極上の素材を使い(恐らくは)ロビー活動で先手を打ったgaku。
しかし丹後シェフのプライドは大きく傷ついた。
知恵を出し合い試行錯誤しながら仕上げたグラメチームと対照的。
こういうところも見せ方めちゃくちゃ上手いんだよなぁ。
善悪といった単純な構図になりそうでならないのも好き。
ツイッターで拝見したフレンチ料理界隈の方のお話によると
丹後シェフとオーナーのような関係性は現実でも良くあるそうです。

対照的と言えば尾花と倫子。
星を獲るなら人生の全てを料理に捧げろのスタンスの尾花。
その彼に倫子が言う。
「自分の家族や店の仲間を幸せに出来ない人がお客さんを幸せにできるはずない」
尾花は納得できない顔をしてましたけど…本当は分かっていると思う。
アメリの寂しそうな姿を見逃さない細やかさが彼にはあるから。
アメリに話しかける時の顔がね、ほんと、きゅんとなっちゃいました。
まるで少年みたいなんだもん。
バラの実を「アメリも食べる?」って。
子供には酸っぱいし渋いだろう!
と突っ込む前に「大人の味だもんな。」って言ってましたけど 笑
相沢のお母様に起床時間を聞いてたから何かあるなと思ったけど。
超ハイレベルのキャラ弁!
二つ星レストランのシェフはキャラ弁も完璧な出来栄えw
寝る間も惜しんでメニュー開発に全力を注ぎつつどこにそんな余裕が?
いや、でも正にこれは「彼の作る料理には人を動かす力がある」ですよ。
食べる人の顔を想像せずに作ったものにそんな力はないはず。
尾花は素直じゃないのよね。
気持ちと建前の違いを自分を厳しく律することで折り合いをつけてきた。
正論でぶつかる倫子に反発はするけど、本音はホッとしてる気がする。
今までのやり方じゃダメなのは分かってるけど、自分じゃ変えられない。
そこを指摘されて受け入れて、尾花自身も自由になっていくんじゃないかな。
相沢が定時上がりの働き方を選択できたの、本当によかった。
古臭い価値観に迎合するよりよっぽど現実的で前向きだから。

コンテストの当日、調理は倫子に任せて一人、根岸の元へ向かった尾花。
倫子と尾花が同じ料理を全く違う場所で作る。
二人の姿がシンクロしていく見せ方もお見事でした。
コンテストの結果、尾花には分かってた気がします。
gakuのオーナーが丹後に言い放った言葉がまさにで、
「お客はシェフに着くんやない。店に着くんや。」
グランメゾン東京は未だオープンすらしていない。
「二つ星レストランのシェフが作った料理」のイメージはやはり強烈。
だから、「俺にはこっちの方が大事なんで。」になったのかなと。
尾花が目指すのは三つ星のフレンチレストラン。
コンテストに優勝するよりも最高のジビエや山の幸を安定して手に入れる
パイプ作りの方がよっぽど重要だったんでしょうね。
わざわざあの日に行かなくても・・・ではありますが、いやいや。
根岸氏を説得するのにはコンテスト当日こそがベスト。
「コンテストで優勝する為じゃなかったのか?」って言ってましたもんね。
さすがです。
倫子曰く「人誑しのおじさん」尾花の面目躍如w
白い皿に盛られた一切れの肉。
小洒落た料理にしやがって、と言いつつ口にした時の驚きと感動。
ソースの味を確かめる。「鹿の血か?」
あの時の尾花の顔。
まさにしてやったり!ですよ。
狡い男。
でも、その前提には職人とその仕事への敬意がある。
自分もまた根岸と同じ種類の人間だから。
自分の仕事を心から愛せる人は他人のそれをも尊重できる。
そのスタンスが伝わったからこそ実現した未来への一歩。
「最高のチームになりそうだな。」と呟く京野の顔に一瞬陰が差したような。
気のせいかしら。
彼が倫子を激励する言葉もジーンとしました。
「自分を信じられない料理人に星は獲れません。」
倫子と京野の距離感って男女じゃなくチームメイトのそれですよね。
だから相沢が京野に言った一言がとても気になる。
「倫子さんのこと気にしてるんだ?」
京野をモヤモヤさせているのは尾花か倫子か。
京野は尾花の才能と人として愛している。って沢村さん語ってましたよね?
その気持ちに尾花は気づいているのか、いないのか。

そしてパリからやってきた超絶完璧プロポーションの編集長。
やっぱりねな尾花の元恋人。
尾花の動揺っぷりが分かりやすすぎて可笑しい。
京野の表情はよく見えなかったけど(残念w)
手強そうなのはビシバシ伝わってきました。
さすが、パリコレモデルの冨永愛。最高です。

Bienvenue au diner!

ようこそ、ディナーへ。

そしてウィンク。
女に手が早い設定の片鱗がほんのちょっと、見えた気がしました。

コメント

nophoto
coco coro
2019年11月7日20:39

HT様

この作品は毎回しっかりとしたテーマを持ちながら、グランメゾン東京がチームとしてまとまっていく過程をワクワクさせる展開で見せてくれる本当に上質なドラマです。脚本も演出も素晴らしいですし、もちろん役者さんも皆美しくて生き生きと役を生きている感じです。

そして本編を観た後で更にHT様の素晴らしい文章を読ませていただくのも楽しみになっています。
「生きとし生けるもの、いただいた命は余すところなく美味しくいただく。そのために料理人がいるんです。」
「食と命」は正にこの言葉に尽きます。
私達が何気なく口にする「頂きます」と「ご馳走様」は元々自分が食すものの命に対する感謝とそれを供してくれた人への感謝の言葉と言われています。
食事の前後でのこの言葉を二人の息子は今でもちゃんと言ってるのに、外国人と食事をする機会が多くなってから夫がほとんどこの言葉を言わなくなったのが残念ですけど、英語にはこんな表現がないのも事実ですからね。

それにしても、尾花君のキャラ弁は本当に見事で美味しそうでした。
アメリの寂しそうな表情を見逃さない尾花君は本当に繊細です。
相沢さんがアメリとの時間をちゃんと持てる働き方でチームに入れて良かったですし、尾花君の不承不承の感じも倫子さんとのやり取りも尾花の変化か感じられて楽しみです。

そして今回玉森裕太さんの表情が本当に素晴らしくて、平古の胸の痛くなるような感情がよく分かりました。来週はいよいよ師弟対決のようですから、またまたワクワクさせられるんでしょうね。

私も京野さんとの関係が一番気になります。最初にあっさりと仲間に入ってくれたけど、彼の尾花に対する感情はそんなに単純なものではないと思うのです。どんな時にも冷静で優しい京野さんが尾花の胸ぐらを掴んだあの時の激情は印象的ですから。きっと今後京野さんとの間に何かあると思っています。

そんなことをいろいろ勝手想像しながら次回のHT様の感想も楽しみにしております。

たぬきん
2019年11月9日11:28

今回も「そうそうそう!!」と頷きながら読んでおりました!毎週感想を楽しみにしております(人´∀`)

今回のツボはラストのフランス語からのウィンクからの「ようこそ、グランメゾン東京へ」だったんですが、肝心のフランス語が何を言ってるのか分からなかったんですよね。「ようこそディナーへ」と言っていたのね!しかもウィンク付きで!元カノへ!w

彼女がまさかの元カノだったとは仰天ですわ。あ、でも二つ星シェフ時代の尾花とならお似合いだったかも!今の少年のようなふわふわ頭の尾花とだとリンダが保護者?って感じになってしまいそうw

そしてゾクゾクしたのが、倫子と尾花のシンクロ料理シーン!あれは胸が高まった!キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!ってなった!この二人の相性は本当にピッタリで、倫子はまさに、HTさんが言う「今までのやり方じゃダメなのは分かってるけど、自分じゃ変えられない。」部分を補える人なんだよね。美人で気っ風が良くて行動力もあって声が綺麗で気配りも出来る。素晴らしいです。ドラマの中でも視聴者に向けても尾花の足りない部分を補ってくれる人。

そして、今回は平古くんの涙も良かった。あのシーンはセリフは一切無かったのに、彼の色んな感情の移り変わりが見て取れた。素晴らしいシーンだったと思う。その後すぐに美優ちゃんのシーンが入って「ひゃあ!ヽ(ll゚д゚)ノ」ってなっちゃいましたけどw

峯岸さんが出てきたおかげで食材に対する向き合い方も感じる事が出来たのも良かった。コンテストの肉だけ貰うよりも、継続的に繋がれた方が絶対に良いし店の為にもなる。尾花はもうgakuが優勝する事は分かってたと思うし、今の倫子になら任せても大丈夫と思ったんだろうね。

と、また長々と失礼しました(´∀`;)

第4話の感想も待っておりますです!

nophoto
裕子
2019年11月9日11:35

HT様
有難うございます。毎回ドラマとHT様のブログがセットになっていて
楽しみ倍増でございます。

「生きとし生きるもの。。。」
こういうセリフを木村さんから聞くと、あのロイドの大学での講義が浮かんできます。
「一人の人間がいつまでも世界を支配し続けないように人には死がある」。
木村さんのセリフ(言葉)もしかして声、には人を惹きつけ、納得させる力が
あります。

尾花さんと倫子さんとのシンクロ料理シーン、最高でした。
脚本と演出の見事さにも感動しています。

アメリに話しかける顔、ほんと、まるで少年みたいでした。
やはりあの人の中には、確実に少年がいますね(笑)。

欧米には「感謝祭」のお祭りがあり、収穫を神様に感謝して家族で七面鳥などの
料理を楽しむようですが、いい習慣だと思います。
ボナペティ、グッテンアペティトそしてうましかてを、等々いただきますの言葉もいろいろあるけれど、どれも生きとし生けるものへの感謝があるように思えます。

明日は4話、HT様、よろしくお願いいたします!

蛇足:今年のノーベル文学賞にP.ハントケ氏に決まって、賛否両論があるようですが、個人的にはあの「ベルリン天使の詩」の脚本を書いただけで、もろ賛成です。。。

HT
2019年11月11日23:16

coco coro様、こんばんは。

「いただきます」 「ご馳走様」 は感謝の言葉。
改めて二つの言葉を並べてみるとよく分かりますね。
三度の食事で生きていることの有り難さと食材になってくれたものへの感謝、
食事を提供してくれる人への感謝。
外国には相当する言葉がない。確かに。
「召し上がれ!」はあるけれどもあくまで能動的な意味合いですよね。
日本人のアニミズム的な観念とも関係あるのかもしれません。

平子役の玉森くんは繊細な表現が光ります。
3話に続き4話でもハッとさせられるシーンがありました。
二宮くんとなんとなく似てる気がするんですよ。
二人とも顔だけじゃなく全身で表現できるのが素晴らしい。

京野は本当に読めないというか、4話のラストも意味深でした。
ミスリードを誘う展開?

平古も京野も尾花が好きで好きでたまらないのかも。
それだけに彼の傲慢さと裏腹の繊細さが時にイラつき時に愛おしくなる。
尾花、罪作りな男 笑
この先の展開が楽しみすぎる!!

HT
2019年11月11日23:31

たぬきん様。

3話の完成度凄かった。
グランメゾン東京を三つ星レストランにするという大きな流れと、
ジビエ料理を完成させるという1話完結の物語の流れ。
両方がうまく作用しあい、さらに「食と命」というテーマをも描き出すという・・・
でも作りはあくまでも王道、小難しい表現は一切なしという凄さ。
エンタメの底力だよね〜まさに。

倫子と尾花のシーンは編集のセンスの良さが光る。
脚本・映像・演出・音楽と役者さんの全てがカチッと噛み合った気持ち良さ。
毎回見終わった爽快感がたまりません。

>>少年のようなふわふわ頭の尾花とだとリンダが保護者?って感じになって

言われてみればwww
長身超絶プロポーションの彼女と並ぶと尾花は幼く見えちゃうよね。
フランス語にウィンクは流石の余裕ですが。
普通の男ならビビっちゃうレベルですよ、リンダさん。
4話での彼女と倫子のやりとりを見て、「あれ?これはもしや。」と思ったのだけど、
それは次の感想に書きますね。

HT
2019年11月11日23:49

裕子様、こんばんは。

ロイドの講義。
そうでした。あの時も木村の声とお芝居の説得力に瞠目させられました。
食は生きるための行為であると同時に何かの命をいただく。
生と死は常に隣り合わせにある。
だからこそ生きているもの、その命は尊い。
木村は理屈でなく実感としてそれを「知っている」ような気がします。
深く思いのこもった声にリアリティを感じるのはそのせいかも。
卓越した大人の男の魂と無邪気な少年性とが同居する不思議。
木村に魅了され続ける所以かもしれないですね。

ベルリン・天使の詩。
あの作品も人の有限の命の素晴らしさを描いた作品でしたね。
灰色の世界で静かに見守り続ける天使は「生きて」いるとは言えない。
永遠の命を捨て有限の人の肉体を選んだ男。
死を意識するのは生きているからこそ。
P.ハントケの脚本は本当に深い。