前後編約5時間の物語を見終わった脱力状態で見るエンドロール。
風間の過去は?冒頭のあれだけ、は無いよね。
本編終わりの後に、ってインスタで言ってたけど…
耳障りなホワイトノイズ。
突然「それ」が始まった。
ホワイトノイズと思ったのは打ち付ける雨の音。
そして…

最後の5分に全部持ってかれたじゃん。

だめだ、最初から見返さないと!


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「過ちを犯した者に一番ふさわしい仕事はなんだと思う?」
「きみがしている仕事だ。警察官だよ。」

風間から田澤へのことば。
仕事の性質上警察官に過失は許されない。はず。
警察学校は適性のないものをふるいにかける場だったはず。
実際、風間はいとも容易く「退校届」を突きつけてきたじゃないか?
「きみにはここを辞めてもらう。明日か?明後日か?何なら今すぐでもいい。」
整った顔に鋭く見抜く左目と異形の右目。
低く重く響くその声の冷たさに反論できる者などない。
だとしたら田澤への言葉は完全に矛盾してないか?
矛盾といえば堂本は「退校」させられ、杣は残った。
同級生への恋慕から止むに止まれず窃盗した堂本よりも
手製爆弾を作ろうとした杣はより悪質で深刻とも見えるのに。
さらに杣は伊佐木を妊娠させてしまう。過ちだらけじゃないのこの生徒?
親が警察幹部だからとまで勘ぐってしまう特別待遇じゃないか。
杣も伊佐木も非常に優秀で素質ありは間違いないけど、二人とも親が関係者だし。
しかしそれが原因の可能性はほぼ無いはず。
前作で神奈川県警幹部を母に持つ菱沼に一切手加減しなかったから。
…ツイッターで見かけたある指摘で謎が解けた。
「風間は退校届を手渡すが辞めるかどうか決めるのは本人」
窃盗の罪は重い。
風間は即座に退校届を突きつける。
堂本はすんなり受け入れ去って行く。同性に恋をし窃盗を繰り返し、
利用する為忍野に近づいた。
「堂本はきみに見返りを求めたか?」風間の言葉に反発する忍野。
彼女が幼少時の辛い思い出を話してくれた時、堂本は自分の狡さを深く悔いた。
忍野が真実を知った以上、残るという選択肢は無かったと思う。
杣は伊佐木の妊娠を知り二人で話あった結果、残った。
爆弾騒ぎを起こし警察学校を退学、母の顔に泥を塗る行為が
いかに不毛で子供っぽいか。
もう自分には家族がいる。二人分の命を背負っていく覚悟を決めた。
風間は全員に「本当になりたかった職業」を紙に書かせる。
再就職のアドバイスの参考にする、とまで付け加えて。
傷は浅い方がよく、やり直すなら早い方がいい。
エラーとリセットを繰り返しながら人は成長していく。
若いきみたちは無限の可能性に満ちているのだから。

「過ちを犯した者に一番ふさわしい仕事は警察官である」

過ちを犯した者は同じ境遇の者をより理解できる。
転んでも起きあがり傷を手当してまた歩き出すやり方を経験しているから。
そういえば風間は同じような言葉を楠本に投げかけている。

「人を傷つけた者は、人を助けることができる。」

一見矛盾して思える言葉の裏に深い洞察がある。
怪物じみた観察と直感を備えた彼は冷徹だが冷酷では無い。
知識と理論に裏打ちされた細やかな感受性。
一方で田澤を4階の高さから落下させた残酷さと衝動性は狂気に近い。
ギリギリのところで踏みとどまる危うさをも感じさせる。
木村拓哉は風間公親を「偏ったまごころの人」と表現していた。
まさにそれ。
真心で人に接するけれどその在りかは常人の想像を超えている。

「退校届」が一方的ではないのは石上のエピソードからも分かる。
なりたかった職業を空白で提出した彼女はトラウマを抱えている。
生徒が飛び降り自殺を図るというショッキングな事件の真相。
退校届を突きつけたのは一種のショック療法では無かったか。
ギリギリの選択。
トラウマから逃げず原因と真正面から向き合え。
自分の過去、友人の過ちから目を逸らすな。
見て見ぬ振りをするな。もしまだ警察官を志すのならば。
「私は市民の命を背負うことになります。」
心にある蟠りを擦り落とすように彼女はなんどもなんども繰り返し唱える。
自らに罰を与え体が不自由になった同期の想いを背負って前に進むために。
背負うもの。
風間教場の生徒たちは誰かの想いを背負っている。
杣は休学した伊佐木を。
そして、漆原。
原作では事故で亡くなったのは宮坂ではなかった。
なぜ彼でなければいけないのか?
その死に本当に漆原は責任があるのか?
実際はどうであれ、漆原は自ら宮坂の意思を背負った。
その重みが、彼を変えた。
「私は市民の命を背負うことになります。」
卒業の日、漆原へ送った言葉で菱沼への言葉を思い出す。
「分かってるな?きみは二人分だ。」
過ちを犯したことのある者。
誰かを傷つけた者。
みんな誰か・何かを背負って道を歩み始める。
あの日、宮坂に言った言葉は、「死ぬな。」
風間の真剣さに衝撃を受ける宮坂、微かに不穏な空気。
図らずも悲劇の伏線となってしまった。
交番勤務の日々、宮坂は昇格試験の受験勉強をしていた。
刑事を目指してるんだろうか?と、ふっと不安がよぎったのを覚えている。
風間は宮坂に死んだ若い刑事を重ね合わせていた。
似た二人だったのかもしれない。
こんな風に、あっという間に、呆気なく人は死ぬ。
あの子の死。
花壇に咲く花は風間が一生背負っていく運命。
「現場に立つには未熟です。」
鋭い嗅覚が未来の悲劇を予見する。
が、風間公親とてイチ教官に過ぎない。
警察という巨大な組織の歯車の一つ。
そしてまた、悲劇は起きた。

掲示板。
貼られた殉職者告知。

宮坂 定

泣き崩れる漆原のすぐ後ろ。
一瞬、ほんのコマ数秒、風間の瞳が揺らいで見え、くるりと踵を返す。
自分の目で確かめるまで信じられない、受け入れ難かったのかもしれない。
四方田から監視カメラの映像を受け取る風間の動作には一分の隙も無い。
…いや、無さすぎて不自然にすら感じる。
緊張した背中、精密機械のような会釈。
感情を表す言葉はなく仮面のような無表情。
崩れそうな時、悲しみと苦痛をやり過ごすために人はルーティンに己を埋没させる。
198期の教え子たちと見る映像。
思わず目を逸らせたくなる無残な映像を見つめる風間の瞳。
何も語らない。ただじっと己に焼き付けるように。

「職務で弔え!!」
敬礼。
場を後にする教え子達。
すがる漆原に一言。 
一人にしてくれ。
向けた背中、足元にあの子の花壇。
悲劇を止められなかった自分、警察学校の教官である以上避けられない喪失。
若い二人の死が重なり合い、記憶が感情を揺さぶり、交錯する。
ふるいにかけ、鍛え上げ、渾身の力で教えて諭しても止められない運命。
涙の流れない風間の、右目の奥には慟哭の記憶が刻まれているのだろうか。


「私ほど警察を憎んでいる人間はそういない。」
「命を捨ててもこの組織に報復したいほどだ。」

「あの人がああいう人になったのはごく最近なんです。」
「恨んでますね、私を。」

土砂降りの雨、ネオンサイン。
香港ノワールを想起するシチュエーション。
張り込みする刑事ふたり。
ベテランとルーキー。
ワイパーを動かして咎められた若い刑事は少々不注意なのかもしれない。
「来ました。」
「行こうか。」
ビニール傘、すらりとスーツ姿。
若い方が立ち止まり、目線の先にパーカを被った挙動不審な男。
その手にギラリと凶器が光る。
「ナイフを捨てろ。」
その声かけが犯人を刺激する。
彼はまたミスった。
「構うな。」
意外な言葉。
「勝手に持ち場を離れるな!」
大きいヤマを目の前にチームで動いていたらしい。
もしかして、風間はその男を知っているのかもしれない。
またはその両方か。
そして若い刑事=遠野は3つ目の判断ミスを犯す。
風間の指示に従わず男を追跡する。
遠野の、衝動的な行動は日常茶飯事なのだろう。
またか。と風間は諦め顔だ。
「見失いました。」
止まない雨。
広げた傘。
半透明な白いそれにバッ!バッ!と大量の鮮血が飛び散る。
何だ?
凍りつき、ハッとして駆け寄る風間。
後ろから滅多刺しにする男、逆光で顔は見えない。
土砂降りの雨は止む気配もなく視界を遮る。
傘で応戦する風間。飛びかかり組み伏せ、転がる凶器の千枚通し。
遠野を助けなければ!
焦っていたのか、凶器を取り上げなかった風間の判断ミス。
後ろから襲われ、揉み合いの末…ピチュッと小さな禍々しい音。
千枚通しの刺さった右目に構わず果敢に戦い、男を撃退する。 が。
全身ずぶ濡れのスーツ。しなやかな身体が苦痛に震える。
ツーっと粘りのある真っ赤な血がひとすじ、コンクリートにしみを広げて行く。
止まない雨が体温を奪う。
激痛と出血でほぼショック状態だが、強靭な精神力で正気を保つ。
「遠野!!」
痙攣しもがく体を揺さぶり、声をかけ続ける。
「遠野!死ぬな!!」
出血と目から鼻から侵入する雨が熱を奪い、今にも溺れそうな彼に、
せめてもと広げてさしかけた傘。
「遠野!!!!」

恐ろしく残酷。
苦痛と慟哭に満ちているのに…強烈な引力のある映像。
濡れて張り付くスーツの、しなやかな体の線。
リアルな血、腱の浮き出た手、張り詰めた筋肉、全身で表現される痛み。
叩きつける雨と怪しく不穏なネオンサイン。
色彩と湿度、温度。
画角も質感もテレビよりスクリーンを意識した映像。
中江功監督の美学が存分に発揮されたシーン。


屋上で修羅場が展開しているすぐ下のスナックに花束を配達したのが鳥羽。
思い起こせば彼は、警察学校へ入学した経緯を誰にも明確にしていない。
忍野に話そうとして、途中でやめた。
風間の部屋では、こっそりファイルを覗こうとした。
そんな鳥羽に風間は「この右目に覚えがあるな。」と囁く。
鳥羽は希望通り白バイ警官になった。
そして鳥羽は、犯人の顔をはっきりと見ている。
「見て見ぬ振りをするな。」
鳥羽は、どうだったのか?
なぜ警察学校へ入ったのか?
犯人はまだ逮捕されていないのか?
遠野の死。
二人が向かっていた現場、見張っていた人物。
尋常ではない風間の憎悪。
謎が謎を呼ぶ。
次の教場への伏線に違いないだろうけど、一年待たされるのは辛すぎる。

コメント

たぬきん
2021年1月18日11:00

いつもながら情景が脳裏に浮かぶ文章力に圧倒されながら読みました!あのラスト5分のシーンは圧巻でしたよね!

前回を踏襲して卒業生が警官として職務についてる姿を映し、さんま警官に「相変わらずやのう」とのんびり見てた脳には刺激が強過ぎて、少しもやっとした後味を残した後編の内容が一瞬消し飛んでしまいました。

もう、その圧倒的な映像の力とと内容の凄惨さったら。語りたい部分は全部HTさんが語り尽くして下さいましたけども!本当に凄かったです。映画館で観たかった!てか、これ絶対続編ありますよね?これでお預けとかナシですよね????

まだ黒髪で両目が存在してた風間教官はモガ様を思い起こさせる雰囲気でありながら島崎も真っ青の身体能力で犯人をぶん投げており、彼がいかに有能な刑事であるかが一目瞭然でしたね(*´ω`*)なんて萌えてる場合じゃない展開なのですが、萌えながら物語を追うのは両立できるのでw

続編、絶対にあると信じて待ちますとも!!共に待ちましょうぞ。

あ、Twitterで「あのさんまのお巡りさんは交番勤務になった空星の完ちゃんではないか?」ってのがあって、色々納得したのでありましたw

HT
2021年1月18日22:23

たぬきん様コメントありがとう!!めっちゃ嬉しいです!!!!

そう、本編が吹っ飛んでしまったエンドロール後の5分。
スクリーンサイズで見たいクォリティですよ。
教場0は映画館で見たいとずっと主張してきたのはまさにそのせい。
淡々とした原作とはまるで対局の鮮血と雨に彩られた禍々しさ、最高!
刑事時代の風間公親はちょっと見モガ様ですが、お育ちの良さげな彼にはない
叩き上げらしい強靭さと胆力を感じるお顔立ちに立ち居振る舞い。
千枚通し突き刺さった状態で格闘してますからね!アドレナリン濃度高すぎ!!
血まみれで目から千枚通し突き出た男が全力で…流石の凶悪犯も恐れをなして
退散するしかない…凄まじいぞ風間公親。
凄惨すぎる。だが萌える。
血まみれの木村拓哉は蜜の味。危ないw

そうか完三か。あり得る。
あんなに明るいけど想像を絶する過去のある男。
可能性としては、ありかな。

nophoto
たた
2021年3月8日10:21

HT様 火星の人類学者はハヤカワ・ノンフィクション文庫(吉田利子訳)で出版されていますよ。

nophoto
HT
2021年3月8日23:33

とと様こんばんは。

火星の人類学者はハードカバーを持っています。
人が世界をどう認識しているか、脳から探るという試みは刺激的で、ぜひ読んでみてきださい。翻訳が待たれるのは「人間の取扱い書」という本です。
自閉症スペクトラムの人の著書は何冊か持っているのですが、私たちが日常何気なくやり取りする言葉にならないサインが、いかに微妙で高度なものか改めて考えさせられます。